固定価格買取制度(FIT)により、太陽光発電による売電を目的とした導入が個人・法人共に増えました。しかし、FIT法改正により売電価格は安価になり、近年では電気を「売る」より「自家消費する」方が賢くお得に電気を使えるのではないかという考えが広まってきています。
今回は投資用太陽光発電よりも法人用自家消費型太陽光発電が何故選ばれるのか、法人が自家消費型太陽光発電を導入するメリット・デメリットについて解説していきたいと思います。
法人用自家消費型太陽光発電とは
法人用自家消費型太陽光発電とは、企業が運営している工場などの屋根や空き地に太陽光発電を導入する設備投資の事です。広大な土地や屋根の上にソーラーパネルを設置する事によって、発電した電気を自社で自家消費します。足りない分は電力会社から電気を購入しますが、電気代を最大限に節約する事ができ、消費税・再エネ賦課金も削減できます。
再生可能エネルギー発電の普及のための財源となっており、 法人・個人問わず電気を使用する国民全員が負担している料金の事を再エネ賦課金と言います。
電気使用量に比例して電気代に上乗せされ、電気を使えば使うほど再エネ賦課金の負担額が大きくなる仕組みになっています。再エネ賦課金の請求額は、毎月電力会社から届けられる「電気ご使用量のお知らせ」(明細書)で確認できます。
さらに、再エネ賦課金は固定価格買取制度(FIT)認定を受けた再生可能エネルギー発電設備の普及によって変動します。2012年では電気使用量1kWhあたり0.22/kWhでしたが、2020年では2.98/kWhまで上昇し、今後も値上がりが続くと言われています。2020年の電力中央研究所の調査によると、 2030年には3.5/kWh~4.1kWhまで上昇する見込みです。
これに対して発電した電気を電力会社に売電し、収益を得られ投資もできる投資用太陽光発電(分譲太陽光投資、土地付き太陽光投資)と言います。従来の太陽光発電は、固定価格買取制度(FIT)を利用して、発電した電気を全量売電し、収益を得る事を目的としていました。
FIT法は、再生可能エネルギーの普及を目標として制定されました。売電単価はFIT認定を受けた年度ごとに決められており、制度施行当初は1kWあたり42円/kWと高単価でした。太陽光発電投資に乗り出した企業も多くありました。このFIT法をきっかけに太陽光発電を開始する方が急増し、2017年にはFIT法は改正を余儀なくされ、単価の大幅な見直しも図られました。
単価はその後も見直されており、2020年現在は、2020年度は10kW以上50kW未満は13円(税抜)/kW、50kW以上250kW未満は12円(税抜)/kW、250kW以上から入札制度により決定することとなりました。
①太陽光発電システムの導入・施工費用が普及当初よりも安くなった事
②FITによる売電メリットが薄まった事
③停電が起こっても工場などの動きをすぐに再活動させるため
④再生可能エネルギーを利用する事によるCO2削減
この4つの理由から電気を「売る」よりも「消費する」方がお得であるという認識が生まれ、投資用太陽光発電ではなく、法人用自家消費型太陽光発電に注目が集まっています。
自家消費型太陽光発電の種類
自家消費型太陽光発電は発電した電気の売電をするかしないかで、2種類に分けられます。
①余剰売電
②全量自家消費
①余剰売電
余剰売電とは、日中太陽光発電で作った電気を自社施設で消費し、使いきれずに余った電気を電力会社に売電する事です。会社の休業日であれば、電気使用量も普段より少ないので、その分電力を売電する場合を想定しているようです。全量売電ほど収益はありませんが、必要な電力は自社に使う事ができるのでその分電気会社から電力を買わずにすみ、節電・節約しながら売電収入を得る事が可能です。
②全量自家消費
全量自家消費とは日中太陽光発電で作った電気を全て自社の中で消費する事です。営業日などの稼働時間が多く、電力消費量が多い施設などに適していると言えるでしょう。全て自家消費してしまうので、売電収入を得る事はできませんが、その分うまくいけば電気会社から電力を買わずにすみ、電気代の削減につながります。また、再生可能エネルギー使用比率向上によるCO2削減など、環境への取り組みをしている企業として評価されるかもしれません。
法人が自家消費型太陽光発電を導入するメリット
自家消費型太陽光発電のメリットは6つです。
①電気料金の削減
②企業の停電対策に有効
③余剰売電なら売電収入も得られる
④節税対策
⑤環境運営の推進活用
⑥法令への対策
①電気料金の削減
自家消費型太陽光発電の最大のメリットは、電気料金を大幅に削減出来る事でしょう。日中太陽光発電で作った電気を、自社施設で自家消費する事によって、電力会社から買電する電気量を削減できます。
また、電気料金だけでなく、基本料金も上げる事が可能です。電気料金の基本料金は最大デマンド値(過去1年間の最大需要電力の中で最も大きい値)を計算基準としています。消費電力量を抑えれば、最大デマンド値を抑えられるので、基本料金を下げる事が可能となります。月々の電気代を削減するだけでなく、基本料金を抑える事ができたら、電気料金の削減に大いに期待できるでしょう。
②企業の停電対策に有効
自家消費型太陽光発電導入時に、自立運転機能付きのパワーコンディショナ(パワコン)を設置すれば停電が発生しても日中に電力が使用でき、できる限り早く活動再開が期待できます。
また、蓄電池を導入すれば夜間や天候が悪く太陽光発電できなかった日には、蓄電池に貯めてある電気を使用する事ができます。
停電が起きれば、企業や工場などはいかに早く活動再開できるかを問われます。企業のBCP対策としても、自家消費型太陽光発電は心強い味方になってくれるのではないでしょうか。
③余剰売電なら売電収入も得られる
自家消費型太陽光発電でも、余剰売電を選択した場合自社で使いきれなかった電気をFIT利用で余剰売電し、売電収入を得る事ができます。発電した電力を無駄にすることなく、電気代の削減と売電収入を得る事ができ、大変お得です。
④節税対策
自家消費型太陽光発電を中小企業が導入する場合、「中小企業投資促進税制」や「中小企業経営強化税制」を利用すると、即時償却や税額控除などの優遇税制を受けられる可能性があります。
「中小企業経営強化税制」の適用には条件があり、「中小企業等経営強化法」に規定されている「経営力向上計画」を作成して認定を受けなければいけません。中小企業がこの法律に基づいた税制・金融面での支援を受けるためには、生産性を向上させるための具体的な取り組みの実施を証明しなければいけません。
設備投資の費用を初年度に全て経費として計上できる制度を即時償却と言います。導入初年度の利益を下げる事によって、法人税の削減が期待できます。ただし、節税になるのは即時償却した当期のみであり、耐用年数間の総合税額が減少するわけではないのでご注意ください。
⑤環境運営の推進活用
自家消費型太陽光発電は再生可能エネルギーを自社で発電し、自社施設で自家消費するのでCO2削減や環境問題に貢献する事ができます。再生可能エネルギーによる脱炭素化への取り組みはCSR活動として企業の価値を高める事に繋がります。環境や社会へ配慮ができているかどうかを投資基準とするESG投資において、世界の投資家から注目されるかもしれません。
⑥法令への対策
自家消費型太陽光発電は工事立地法や省エネ法などの法令基準達成に有効と言えます。
工場立地法とは、工場立地が環境の保全を図りつつ、適正に行われるよう定められたものです。自家消費型太陽光発電は工場立地法からすると環境施設としてみなすことができます。
省エネ法とは、施設のエネルギー使用量を制限することです。
自家消費型太陽光発電は、太陽光パネルから電気を作り出し、電力会社から買電量を減らす事ができるため、省エネ対策と言えるでしょう。
法人が自家消費型太陽光発電を導入するデメリット
自家消費型太陽光発電のデメリットは3つです。
①施設の稼働状況や稼働時間で節電効果が変化する
②導入コストが高い
③メンテナンス・維持費がかかる
①施設の稼働状況や稼働時間で節電効果が変化する
自家消費型太陽光発電は日中に発電し、施設に電力を供給します。そのため、休業日など施設の休みが多い施設では全量自動消費を選択した場合、発電した電力を活かすことができません。日中に電力使用量が多く、稼働日数が多い施設の方が効率よくフルに電力を消費する事ができます。
②導入コストが高い
自家消費型太陽光発電の設置費用は高額です。しかし、ソーラーパネルの費用は年々低下傾向にあり、補助金や節税制度を適切に活用すれば初期費用を抑えて設置できるかもしれません。
③メンテナンス・維持費がかかる
自家消費型太陽光発電を導入後、メンテナンスや維持費がかかります。
・パワコンの交換費用
・定期点検費用
・清掃費用など
何故自家消費型太陽光発電なのか
自家消費型太陽光発電はFIT法改正により投資用太陽光発電よりも利益が高くなっています。それだけでなく日中太陽光発電から作った電気を使用する事により、電力会社から電気を買わずに済むので、電気代の基本料金も下げ、節電に大きく貢献しています。
電気代削減だけでなく、太陽光による再生可能エネルギーを使う事によってCO2削減に貢献する事は、環境への取り組みができている企業であるとESG投資等の投資家の評価を得る事ができます。中小企業の場合、環境への取り組みを重視する大手企業が取り組みを求めてくる可能性もあります。
また、地震や台風による停電時に、自立運転搭載のパワコンがある自家消費型太陽光発電があれば、少しでも早く工場や施設を復旧させることができ、BCP対策にもなります。
売電や節電だけでなく、地球環境貢献や停電時の企業としての対応などにより、投資用太陽光発電よりも自家消費型太陽光発電の方が求められているのかもしれません。