太陽光とソーラーシェアリングとは? 農作物を作りながら電気も作れる新しい農業スタイル!

固定価格買取制度(FIT)単価の下落を受けて、野立てをメインとしていた太陽光施工業者が全量売電可能なソーラーシェアリング事業に参入しようとしていますが、ソーラーシェアリングとはあくまでも「農業」がメインであり、売電利回りのみを追求するビジネスモデルとは大きく異なります。
これからのソーラーシェアリングビジネスは「脱FIT」「自家発電・自家消費」がメインとなり、より環境価値に特化したものが主流となっていくでしょう。
太陽光によって発電するソーラーシェアリングは、農業の収益性を高める仕組みとして注目され、国の制度改定もあってその広がりはますます加速しています。
今回は太陽光と営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)について解説します。

ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)とは

ソーラーシェアリング(旧称:営農型太陽光発電)とは、農作物をつくりながら電気も作るという新しい農業スタイルのことです。

ソーラーシェアリングは和製英語で、海外ではAgri-Voltaicと呼ばれています。

畑や田んぼで従来通り農作物を育てながら、農地に支柱等を立て、その約3~4m上の位置に、藤棚のように架台を設置して、その上に太陽光パネルを並べ、太陽の光を分け合って農作物とエネルギーを作り出します。そのため、1つの土地で農業と発電事業の両方を行うことができます。

ソーラーシェアリングは「農業」「エネルギー」「街づくり」「環境問題」と幅広い分野で問題解決を図ることのできるシステムといえるでしょう。

ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)を始めるためには、太陽光パネルの下部の農地で適切に営農活動を行う必要があり、設備の設置に当たっては、農地法に基づく一時転用許可が必要となります。

国は、営農型太陽光発電を進めるため、平成30年5月に農地転用許可の取扱いを見直し、担い手が営農する場合や荒廃農地を活用する場合等には、一時転用許可期間を3年以内から10年以内に延長しました。さらに、令和3年3月には、荒廃農地を再生利用した場合に限り、周辺農地の平均的な単収と比較して8割以上とされてきた収穫量要件がなくなり、規制は緩和されました。

従来の地面に置くタイプの太陽光発電では、地面を「平面的」に利用していましたが、ソーラーシェアリングでは、農地を「立体的」に積極的に使うことで、電力と農作物の両方を得ることができ、農家の大幅な収入アップが期待されています。
また、不要メガソーラーのように新たな不毛の地をつくらず、自然を活かしながら発電ができることが大きな特徴です。

ソーラーシェアリングのメリット

ソーラーシェアリングのメリットは以下の通りです。

日本の農地と食をまもる

1つ目は「日本の農地と食をまもる」ことです。

ソーラーシェアリングは、荒廃農地や耕作放棄地を活用することができます。

水耕栽培では莫大な電力を必要とするため、エネルギーコストというのは深刻な問題です。水流や水温調整が常時必要なのはもちろんのこと、作物によっては温度や湿度の管理など環境制御にかなり重要な役割を果たしています。

日本全国にある未利用農地約40万haをソーラーシェアリングで活用すれば、営農に加えて約200GW(約5,500万世帯分)の電気を作る事が可能です。電気を作りながら農地で作物も育てられるため、日本の農地と食を守ることができます。

農業の収益構造と後継者不足の問題を解決

2つ目は「農業の収益構造と後継者不足の問題を解決」することです。

ソーラーシェアリングで発電した電力は自家消費することも、売電することもできます。農業者は農作物を作りながら売電による収入を得ることができ、自家消費することで農業にかかるエネルギーコストの削減が可能となります。そのため、農業の収益構造を改善し、後継者不足の解消や新規就農者の増加につながるでしょう。

地域の自立につながる

3つ目は「地域の自立につながる」ことです。

農業の継続と太陽光発電の組み合わせによって、農業の収益率を上げ、地域にお金を回すことで、地域活性化に繋がり、持続可能で自立した地域社会の実現が可能となります。

災害時対策に有効

4つ目は「災害時対策に有効」なことです。

ソーラーシェアリングは災害時の対策としても有効です。
某農園のソーラーシェアリングは過去の大型台風でも影響がなかった実績があり、とても堅固な設計になっています。蓄電池も併用すれば、夜間電力にも対応できるので非常用のインフラ設備としても活躍できます。

今後EV車が普及してくれば、エネルギーステーションとしての役割を果たすようになるかもしれません。

地球環境に貢献

5つ目は「環境に優しい」ことです。

これまでメガソーラー等をはじめとした大型の再生可能エネルギーの発電設備は、山や森林を切り開くなど自然を破壊しての建設も見られました。
本来、環境に優しいはずの太陽光発電が利益のために地域の環境を破壊するのは矛盾しているといえるでしょう。更に、森林伐採は土砂崩れにも繋がり、地域の安全を脅かすことにもなります。

これに対し、ソーラーシェアリングは農地を利用することもあり、自然破壊につながるようなこともありません。
また、ソーラーシェアリング事業は、農作物栽培によって二酸化炭素(CO2)を吸収し、太陽光発電(再生可能エネルギー)を活用することで化石燃料に依存した農場のエネルギー構造から脱却し、CO2削減に貢献します。地球温暖化を進める温室効果ガス削減にも繋がります。

また、ソーラーシェアリングは国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発のための2030アジェンダ)が掲げる17ゴールのうち、5つの目標達成につながる事業です。

ソーラーシェアリングは、エネルギーを生み出し、気候変動への対策を進めるだけでなく、農業者の働きがいと経済成長、産業と技術革新の基盤、住み続けられるまちづくりにもつながります。

ソーラーシェアリングの事業化

ソーラーシェアリングに取り組むに当たって、太陽光パネルの下部の農地で適切に営農を継続しなければなりません。設備の設置に当たっては、農地法に基づく一時転用許可が必要となります。
ソーラーシェアリング事業を始める条件は以下の通りです。

・広さ1.5反(1,500㎡)の第一種農地を所有、または20年間の借用ができる
・送電線が近くにある
・事業認定を取得できる
・農業委員会の許可を得られる
・電力会社と接続契約を締結できる

従来の太陽光発電とは異なる独自の仕様が必要ですので、手順がスムーズに進むよう、ソーラーシェアリング協会が事業化サポートをおこなっています。

また、長期安定的に発電事業を行うため、地域の方々の理解を得ながら事業を進めていくことが重要ですし、長期の営農計画、営農体制の確保、電気事業法に基づく安全対策等関係する法令を遵守する必要があります。

協会では農業者と地域の関係者の協働によるソーラーシェアリング事業を重視しています。協会が行っている事業化支援は以下の通りです。

・農地の保全や農業の復興
・地域の再生
・持続可能な農業のあり方を提案しながら地域に寄り添う
・存続や活性化のツールとしてソーラーシェアリングを活用する

ソーラーシェアリングに対する不安と対応策

ソーラーシェアリングに対する不安と対応策は以下の通りです。

農業を継続できる自信がない

1つ目は「農業を継続できる自信がない」ことです。

ソーラーシェアリング事業の仕組みは20年間の営農が義務付けられます。
ソーラーシェアリングは単純な施工の技術だけでは進められないポイントが多くあります。
作物の選定や遮光率をはじめとしてしっかりした農業のノウハウがなければ、ソーラーシェアリングの良さを十分に発揮できず、運営そのものが立ち行かなくなるでしょう。
ソーラーシェアリング協会は栽培する作物の選定から施工までをワンストップサービスで提案してくれますので、安心して始めることができます。

日光を遮ることで農作物に影響が出るか不安

2つ目は「日光を遮ることで農作物に影響が出るか不安」なことです。

太陽パネルで日光が遮られ、農作物に影響が出るのではないかと不安に思われるかもしれません。
しかし、作物に合わせた適切な日照量(光飽和点)を確保すれば問題ありません。

ソーラーシェアリングで太陽光パネルを設置する場合、農作物の生育に必要な日照量を考慮し、一定の間隔を開けます。これまで、日本で栽培されている主要作物は、ほぼ全ての品種が問題なく栽培されています。温暖化傾向にある近年では、遮光によって生育が良くなったケースも報告されています。

具体的な取り組み事例

ソーラーシェアリングの具体的な取り組み事例は以下の通りです。

トマト施設栽培の未利用農地での活用

1つ目は「トマト施設栽培の未利用農地での活用」です。

大規模なトマト施設栽培を行っていた株式会社サンフレッシュ小泉農園(宮城県気仙沼市)は、重油や電気代の圧縮を目指し、隣接する未利用農地でソーラーシェアリングを実施しました。発電出力は200kWであり、下部農地面積は22aでばいれいしょを栽培、遮光率は68.5%でした。

発電した電気はハウス内の暖房などに利用され、年間600万円ほどの電気代削減を実現しました。高所作業台車の充電を昼間に変えたり、経費削減のために使用を控えていた出荷棟の空調設備も稼働させる等、職員の健康管理にも寄与しています。

災害時の非常用電源としての活用

2つ目は「災害時の非常用電源としての活用」です。

市民エネルギーちば株式会社(千葉県匝瑳市)は地域主導で環境に配慮した市民発電所作りを展開しました。発電出力は35kWで、下部農地面積は6aで大豆を栽培、遮光率は33%のソーラーシェアリングの電力が使われている自立運転可能な市民発電所を、台風の影響で停電が続く中携帯電話などの無料充電所として開設しました。
今後、市や地域の自治組織と協定を結び、非常時の地域への給電体制を整え、周知していくそうです。

まとめ

太陽光とソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)について解説してきました。以下、まとめとなります。

・ソーラーシェアリング(旧称:営農型太陽光発電)とは、農作物をつくりながら電気も作るという新しい農業スタイルのこと
・ソーラーシェアリングを行うには、太陽光パネルの下部の農地で適切な営農を20年間継続しなければいけない
・ソーラーシェアリングを取り入れることができれば、電気代削減だけでなく、非常時電源としても活用できる

ソーラーシェアリングは環境にも優しく、エネルギーを大量に消費する水耕栽培などに電力を使えますので、電気代削減にも繋がります。農業を運営しながら売電も可能ですので、収益もアップし、これから自家発電自家消費を支える新しいシステムの一つとなるでしょう。

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