日本政府は第6次エネルギー基本計画で「2030年度に電源構成の36~38%を再生可能エネで賄い、現在の太陽光発電導入量1,853億kWhを約2倍にする再エネ設備導入する」という目標を掲げました。これを実現するために、経産省だけでなく環境省や国土交通省、農林水産省など関係各省庁は連携して取り組みを行っています。改正温対法によるポジティブゾーニングの推進はその一つです。今回は再生可能エネルギーである太陽光発電とポジティブゾーニングについて解説します。
ポジティブゾーニングとは
ポジティブゾーニングとは、自治体が再生可能エネルギーの導入を促進する区域を設定する取り組みです。
ゾーニングとは、土地などの空間を特定の目的に応じて区分けすることです。簡単にいえば「土地の色分け」です。自治体の都市計画などでは、用途別に土地を色分けしていますので、特別新しい概念ではありません。
ポジティブゾーニングは、自治体が促進区域を定め、地域がその区域で再エネを行う事を納得するよう円滑な合意形成を図ります。考え方は以下の通りです。
・再エネ発電設備の設置に不適当なエリアを除外
・設置が認められる白地のエリア(調整エリア)のうち、積極的に設置を行うエリアを「促進区域」として抽出
設置に不適当なエリアは、環境省令や環境配慮基準に基づく区域を想定しています。
具体的にいうと、絶滅危惧種の生息地や保護地域、居住地域や森林、鳥の営巣地などに近い場合も除外の対象になると想定されています。
ここ数年、市町村が条例で再エネ抑制区域を設定するケースが増えている中、逆に「再エネを推進する区域」を設定して、積極的に再エネの新規開発を促す狙いです。
環境省のポジティブゾーニングによる再生可能エネルギーの推進策
2021年5月に「地球温暖化対策の推進に関する法律」(温対法)が改正されました。2050年までの脱炭素社会の実現を基本理念とし、環境省は実現に向けた柱のひとつに「地域の脱炭素化に貢献する事業を促進するための計画・認定制度の創設」を挙げました。
また、環境省は2021年9月7日に改正地球温暖化対策推進法を踏まえた対応に関して討議を行いました。この会議で、環境省は再エネ事業が認定される例として「地域課題解決」「地域経済」「防災」への貢献などを示し、類型化していく方向性を示しました。
その中で「ポジティブゾーニング」による再生可能エネルギーの推進策について、以下のような概要を示しました。
・市町村は、改正温対法により温暖化対策実行計画の策定が義務付けられ、その中で「再エネ導入量の目標」と「再エネ促進区域」を設定する
・民間事業者は再エネ事業計画を市町村に申請し、認定された場合、許認可手続きなどに関し、市町村を窓口にワンストップで進められるなどの特例措置が受けられる
・市町村による再エネ事業計画の「認定」基準は、温暖化対策実行計画に沿っていることに加え、「地域の環境保全」「経済・社会の持続的な発展」への貢献が要件となる
環境省は今後年内に4回程度有識者会議を開催し、これらの施策を運用するための「マニュアル」を作成し、2022年4月の改正温対法施行に間に合わせる方針です。
環境省がポジティブゾーニングを進める理由
脱炭素社会の実現には太陽光などの再エネ発電設備が不可欠です。しかし、メガソーラー(大規模太陽光発電所)開発による森林伐採などの問題に伴い、開発による太陽光発電に懸念をもつ地域住民も存在します。
環境省がポジティブゾーニングを進める理由には、再エネ発電設備の開発を進めるために、開発地域住民との円滑な合意形成をしたいという意図があります。
改正温対法のポジティブゾーニングを利用した計画で、市町村から「お墨付き」を得ることは大きな利点となるため、市町村などの地方自治体に自らポジティブゾーニングを行って貰います。生態系や居住環境などに配慮しながら太陽光発電設備の開発を「促進区域」に誘導することで、再生可能エネルギーの導入を促進させるのです。
再生可能エネルギーの追加的な導入政策に関する説明
2021年7月6日、経済産業省・資源エネルギー庁は有識者会議(再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会)を開催しました。その時、再生可能エネルギーの追加的な導入政策に関する説明は以下の通りです。
環境省
・2030年度までに約20.1GWの太陽光を追加的に導入する見通し
(1)国・地方公共団体が保有する設置可能な建築物屋根などの約50%に設置することを目指し、6.0GW導入
(2)民間企業において自家消費型の設置を促進し、少なくとも10GW導入
(3)改正温暖化対策推進法を効果的に運用し、約1,000の市町村が公有地や脱炭素促進区域などにおいて、4.1GW導入
・公共建物と促進区域などへの設置など、自治体主導によって約10GWの再エネを上乗せするイメージ
国交省
・インフラ空間を活用し、太陽光発電を可能な限り導入する
・空港の再エネ拠点化を推進して、2030年までに2.3GW規模の導入について検討
経産省
・現状の政策を維持した場合、太陽光の2030年累積導入量の試算値は約88GWと公表
(1)太陽光の2019年度時点の導入量は55.8GW
(2)固定価格買取制度(FIT)で認定済みの未稼働案件24GWのうち75%(18G)が稼働すると見込んでいる
(3)これらを加算すると74GWになる
(4)2020年度の太陽光認定状況の減少が続き、認定容量を1.5GWまで縮小
(5)2030年まで継続した前提でさらに14GWを見込み、74GWに14GWを加え88GW
・FIT初期の未稼働案件が完工して2GW以下に縮小する見込みの太陽光市場を、2030年までに徐々に6GW規模まで回復させていく方針
流れを転換させた経産省による太陽光政策
経産省による太陽光政策は、すでに2030年目標の達成が確実になっていたこともあり、ここ数年、新規開発に抑制的な立場でした。今回、こうした政策の流れを転換し、新規開発市場の水準を6GW程度に維持するとの方向性を明確に示し、政策の流れを転換させました。
環境省と国交省が示した追加的導入量を、経産省が試算した現状政策維持ケースの約88GWに加えると、合計約110GWになります。
ただし、2030年度の温暖化ガス削減目標である46%減を達成するための太陽光の累積導入量は、民間機関などから130G~160GWという試算値が出されています。
FITやFIPでの買取価格を引き上げるという選択肢は国民負担の点から想定しづらいです。
また、日本の平地面積はドイツの2倍あり、国土面積あたりの太陽光導入容量は主要国の中で最大ですが、地域共生しつつ、安価に事業が実施できる適地が不足しているという懸念の声が非常に強いです。そのため、以下のようなテコ入れ策が議論されることになるでしょう。
・地域共生、適地の確保
・太陽光産業が縮小する中での産業の維持・再構築
・ローカル系統の整備を中心とした系統の整備
・PPAなどのFIT制度に頼らないビジネスの推進など
経産省の示した「2030年累積導入量の試算値は約88GW」には、FIT認定外の自家消費案件が含まれていないことや、上記のような今後のテコ入れ策を考えると、2030年時点で太陽光の累積導入量は実際には100GWを超えることも十分に予想できるでしょう。
2030年目標達成において経済産業省だけでは限界がある
これまでエネルギー政策と再エネ導入は、経済産業省が所管責任省として展開してきました。しかし、太陽光発電を中心とする分散型電源の導入規模拡大をさらに拡大させるには、経済産業省一省では限界があります。
「再エネの主力電源化」に「温室効果ガス46%削減必達」が加わることにより、環境省、農林水産省、国土交通省等の関係府省庁が分担する必要があります。
再エネの導入・設置拡大は経済産業省のエネルギー政策のみに頼るのではなく、関係各省が所管する法律、規制、制度、施策の中で担える導入領域への普及促進を責任もって進めていかなければ、100GWを超える目標達成は不可能といえるでしょう。
また、第6次エネルギー基本計画で日本政府は「2030年度に電源構成の36~38%を再生可能エネで賄い、現在の太陽光発電導入量1,853億kWhを約2倍にする再エネ設備導入する」という目標を掲げました。目標達成のため、第6次エネルギー基本計画の策定では関係府省庁の参画も始まっています。各関係省の対応として見込まれている内容は以下の通りです。
各関係省 | 見込まれている対応内容 |
経済産業省 | ・送電網の増強
・系統運用や自己託送ルールの見直し ・分散型エネルギーリソース活用など |
環境省 | ・改正温対法によるポジティブゾーニングの推進
・政府実行計画での公共施設・公共所有地への率先導入 ・PPA方式による民間企業への自家消費型太陽光発電導入支援 ・需要家が直接再エネを調達できるようなルールの整備など |
農林水産省 | ・営農型太陽光発電の展開
・耕作放棄地・荒廃農地の活用などの農地転用ルールの見直しなど |
国土交通省 | ・住宅・建築物に関わるZEB/ZEHの推進
・屋根上太陽光の設置義務化 ・インフラ施設(道路、港湾、都市公園、鉄道など)空間を活用した導入促進など |
まとめ
再生可能エネルギーである太陽光発電とポジティブゾーニングについて解説してきました。以下、まとめになります。
・ポジティブゾーニングとは、自治体が再生可能エネルギーの導入を促進する区域を設定する取り組みのこと
・自治体自らポジティブゾーニングを行うことによって、開発に対し懸念を持つ地域住民との円滑な合意の上で再生可能エネルギー導入を促進させるのが政府の狙い
・2030年目標を達成するには、関係各省が連携して太陽光発電などの再エネ導入・設置拡大を行う必要がある
大がかりな太陽光発電設備はその土地環境を変えてしまう可能性があるため、その地域に住んでいる人達が納得した上での開発が求められます。脱炭素化社会には太陽光発電などの再エネ設備が必要不可欠であり、そのためにポジティブゾーニングは重要な位置づけになっていくでしょう。
関係府省庁は、2030年の太陽光累積導入量が実際に100GWを超える導入を現実的にするため、2022年以降の再エネに向けての施策立案や規制改革を進めています。施策を推進するための新たな予算も2022年度の予算要求の中に盛り込んでいます。これからの日本政府の再エネに関する動向に注目です。