2022年4月1日に電気事業者による「再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」が改正され、「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」になりました。
これにともない2022年4月から出力制御の対象が拡大し、10kW以上の太陽光発電設備がすべて出力制御の対象となりました。
出力制御は何故必要であり、太陽光発電とどう関係があるのでしょうか。今回は太陽光発電と出力制御について解説します。
出力制御が必要な理由
出力制御とは、電力会社から発電設備に対し、パワコンからの出力を停止、または減らすように要請し、発電設備からの出力をコントロールすることです。
電力会社は予測される電力需要に応じて発電計画を決定し、発電所の稼働や出力を調整して需給バランスを保っています。
この需給バランスが崩れ、需要に対して電気が足りない状態になると周波数は低下し、需要に対して電気が余ると周波数は上昇します。周波数が保てなくなると電気使用設備への悪影響や、大規模停電発生を引き起こす可能性があり、さらに電気は発電と消費が同時に行われ、基本的に貯めることはできません。
よって、電気の需給バランスを常に一致させ続けることは非常に重要であり、出力制御は必要なのです。
太陽光発電に出力制限が必要な理由
2012年から固定価格買い取り制度が始まり、太陽光発電への需要は急激に増え、2014年には系統に接続し続ければ需要を供給が上回る、と九州、北海道、東北、四国、沖縄電力は新規の系統接続に対する回答を保留しました。
需要よりも供給が多すぎる場合、電力会社は出力の変更が比較的容易な、火力発電量を抑えるなどの供給量絞り込み対策を行います。それでも電気の供給が需要に対して多い場合は、再生可能エネルギーの発電量も抑えなければいけません。
しかし、太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる発電量は天候に左右されるため、発電料調整ができません。そのため、供給過多による停電などを避けるためには、電気をあまり使わない時期を基準とし、太陽光などの接続可能量を決め、出力制御を行う場合と比較すると、系統への接続可能量が少なくなってしまいます。
出力制御を行えば、こうした制約が緩和され、需要が少ない時期を中心に出力制御を行い、需要が高い時期には出力制御を行わず発電します。これにより、多くの電力量の再生可能エネルギーを系統に接続することができます。
また、固定買取制度(FIT)期間終了後、少しでも売電価格が良いところをと新電力と契約する方も多いかもしれません。電力網に接続する以上、売電先がどこになっても需要バランスを崩さないようにする必要があり、新電力に売電する場合も出力制御は必要となります。
火力発電とは
火力発電は調整力として必要のない時は停止するなど、稼働率や供給力が下がっているため収益性の確保が難しく、LNGなどの燃料価格跳ね上げによるコストが増加していきます。
そのため、政府が示す2030年度のエネルギーミックス実現には、二酸化炭素を出さない水素やアンモニアを活用するなどの取り組みが求められています。
出力制御の流れ
出力制御の流れは以下のとおりです。
- 電力会社で気象情報などから需給想定を行い、再生可能エネルギーの出力制御が必要量を算定
- 必要な制御量に応じて電力会社にて出力制御を指示する発電設備を選び、出力制御スケジュール作成
- 出力制御実施の前日までに予告があり、当日も需給状況や天候などにより、必要に応じて出力制御スケジュールが最新化
- 出力制御当日は出力制御指示のあった設備で出力制御を実施
- 出力制御対応機器で制御する場合は、最新の出力制御スケジュールを自動的に取得し、指定された出力制御内容で自動出力制御
出力制御対象になる発電所の種類
出力制御対象になる発電所の種類は以下のとおりです。
オフライン発電所
1つ目は「オフライン発電所」です。
オフライン発電所とは、出力制御機器を設置していない発電所のことです。出力制御が必要となった時に、現地で手動により出力を止める操作を行います。
オンライン発電所
2つ目は「オンライン発電所」です。
オンライン発電所とは、出力制御機器を設置し、遠隔で出力制御を行う発電所のことです。出力制御対応機器によって電力会社から出力制御スケジュールを取得し、パワーコンディショナーの自動出力調整を行います。
出力制御機器とは、インターネットを通じて電力会社からの指示を受け、遠隔出力制御を可能にする機器であり、以下のような構成になっています。
- 出力制御対応パワコン
- 出力制御ユニット
- インターネット接続機器
出力制御スケジュール自動取得には外部通信機能が重要となる
「出力制御スケジュール」を自動的に取得し、出力制御するにはインターネット回線などの外部通信機能が重要となります。山間地に立地する発電設備など、通信回線解説が物理的に困難な場所の場合のみ、固定スケジュール手動設定で検討されていますが、基本的に外部通信機能を備えているものとされています。外部通信機能がある場合とない場合の違いは以下のとおりです。
●外部通信機能がある場合
外部通信機能がある場合、30分単位、定格出力制御値1%単位のきめ細かな制御スケジュールがわかるので、出力制御による発電機会の損失を最小限に抑えることが可能となります。
●外部通信機能がない場合
外部通信機能がない場合、以下の理由で出力制御対応機器と比較すると発電機会の損失が多くなります。
- 電力受給状況から需要が少なく発電の多い時期に大まかな日時を指定した年間スケジュールを現地で手動取得、出力制御ユニットに保存、それに基づき制御するため稼働コストが発生する
- スケジュール登録忘れや遅れがあると出力できなくなるなどリスクが大きいなど
出力制御ルールとは
発電設備の接続可能料の空きは地域差があるため、地域と発電設備の容量によって出力制御適用ルールが異なります。
旧ルール(30日ルール)
1つ目は「旧ルール(30日ルール)」です。
500kW以上の大規模な発電設備に対して、年間30日を上限に無保証で出力制御要請ができるルールです。設置義務はありませんが、オンライン化が推奨されています。
新ルール(360時間ルール)
2つ目は「新ルール(360時間ルール)」です。
10kW以上500kW未満の発電設備に対して、年間360時間を上限に無補償で出力制御要請できるルールです。
旧ルールでは再生可能エネルギーを系統に接続することが困難な状況でしたが、2015年1月26日に「再エネ特措法」が改正することで、接続可能料増加に成功しました。地域や設備容量によっては出力制御に対応可能な機器の設置の義務付けがあり、オンライン出力制御対応です。
指定ルール(無制限・無補償ルール)
3つ目は「指定ルール(無制限・無補償ルール)」です。
10kW以上500kW未満の発電設備に対して、上限時間なく無補償で出力制御要請できるルールです。出力制御機器の設置義務があり、オンライン出力制御対応です。
2022年度に出力制御が大きく変わったポイント
2022年度に出力制御が大きく変わったポイントは以下のとおりです。
オンライン代理制御(経済的出力制御)導入
1つ目は「オンライン代理制御(経済的出力制御)導入」です。
オンライン代理制御とは、出力制御を行っているオンライン事業者が、行っていないオフライン事業者の出力制御代行をすることです。出力制御を料金精算で代行するため「経済的出力制御」ともいわれています。
- オンライン事業者:対価として、代理制御とみなされる発電量に固定価格買い取り制度を乗じた金額、もしくは通常の買取単価を乗じた買取代金が支払われる
- オフライン事業者:売電収入から買取代金に相当する金額が控除されることで、出力制御を実施したとみなされる
代理制御に基づくみなし発電量に対するオンライン事業者への対価(買取代金)は、本来の売電収入と計量値に基づく売電収入の差額です。
たとえば、調達単価24円/kWh、当月計量発電量10万kWh、前々月計量発電量12万kWhの場合、本来の売電収入は244.2万円であり、代理制御に基づくみなし発電量に対するオンライン事業者への対価(買取代金)は約4.2万円になります。
- 24円/kWh×10万kWh+24円/kWh×(12万kWh×1.47%)=244.2万円
- 244.2万円-240.0万円=約4.2万円
オンライン代行制御の目的は「出力制御の全体量を減らす」ことです。オンラインによる出力制御は、オフラインに比べて手動制御の手間を省くことができ、必要時間帯のみ制御可能なので、迅速かつ実需給に近い柔軟な調整ができます。そのため効率的に出力制御総量を低減できるでしょう。
10kW以上の低圧太陽光発電設備も出力制御の対象になった
2つ目は「10kW以上の低圧太陽光発電設備も出力制御の対象になった」ことです。
旧ルール10kW以上500kW未満の太陽光発電設備が4月に国がルールを改定することから、出力制御の対象に加わり、10kW以上の低圧太陽光発電設備も出力制御の対象となりました。
当面の間は出力制御の対象外でしたが、出力制御における事業者間の公平性などの観点から、2022年12月以降、九州電力などの出力制御対象発電所となります。
オンライン化への切り替え率は高くなっていっている
経産省は将来的にオフライン制御をなくし、オンライン制御とオンライン代理制御で出力制御を実施していく考えを示しています。
たとえば、中国電力ネットワーク株式会社では、旧ルール太陽光事業者に対して、オンライン化のメリット説明や訓練などを行い、出力制御機能付PCSなどへの切替の促進活動を継続して実施し続けました。2022年4月末には207万kWの内36.0%(74.7万kW)がオンラインへ切り替えを行い、2021年7月末に比べて切り替え率は高くなっています。
2022年4月末 | 2021年7月末 | ||
太陽光 | ①オンライン化率
((②+④)/(②+③+④)) |
66.9% | 63.0% |
②新ルール・無制限無補償ルール,オンライン事業者 | 193.6 | 180.0 | |
③旧ルール,オフライン事業者 | 132.7 | 139.9 | |
④オンライン制御可能な旧ルール事業者 | 74.7 | 57.1 | |
⑤旧ルール事業者のオンライン切替率
(④/(③+④)) |
36.0% | 29.0% |
まとめ
太陽光発電と出力制御について解説してきました。以下まとめになります。
- 出力制御は電気の需給バランスを常に一致させ続けるために必要であり、地域と発電設備の容量によってルールが異なる
- 2022年度に出力制御が大きく変わったポイントは「オンライン代理制御(経済的出力制御)導入」と「10kW以上の太陽光発電設備も出力制御の対象になったこと」
- 経産省は将来的にオフライン制御をなくし、オンライン制御とオンライン代理制御で出力制御を実施していく考え
出力制御の需給バランスが崩れると機器に悪影響を及ぼしたり大停電を引き起こす可能性があります。そのため、出力制御の全体量を減らすために、実際中国電力ネットワーク株式会社のような、旧ルール事業者のオンライン切替率が高くなってきた電力会社も出てきています。政府が想定しているオンライン制御とオンライン代理制御による出力制御はこれからどんどん増えていくのではないでしょうか。