太陽光がないのに夜間も発電できる?太陽熱発電を応用した夜間太陽光発電!

家庭用、業務用、産業用、送電ロスを含めた社会全体の電力利用のピークは14時頃ですが、一般家庭でのピークは20時頃です。この時間帯に自宅で過ごす人が多く、照明やテレビ、パソコンなどを利用することで電力を消費します。20時頃に発電できれば電気代節約に繋がりますが、日没後の時間帯なので太陽光発電は利用できません。太陽光のない夜間に発電するのは夢のような話だと思えますが、近年夜間光電池の実用化を目指した実験結果発表が増えつつあります。本当に夜間に発電などできるのでしょうか。今回は太陽光発電と夜間太陽電池について解説します。

基本的に夜間は太陽光発電を使用できない理由

基本的に太陽光発電システムは夜間に使用できません。何故なら、「夜の光エネルギーではパワコン起動電圧を作り出せない」からです。

太陽光発電システムは、モジュールで受けた光エネルギーを光起電力効果によって電気に変換する仕組みになっています。

夜間の月光による太陽光パネルを単三乾電池1本でも作動する電子オルゴールに繋いだ所、電圧0.8V前後、電流1μA(単三電池の40,000分の1ほど)ですが、わずかに発電しました。太陽光発電システムは夜間の少ない光エネルギーでも発電できますが、直流である太陽光発電を家電などに供給するにはパワーコンディショナ(パワコン)を稼働し、交流に変換しなければなりません。わずかな光エネルギーではパワーコンディショナを起動するのに必要な電圧(50V~100V程度)を得ることは不可能です。結果として太陽光発電システムは夜間に使用できません。

太陽光発電システムには太陽光発電と太陽熱発電がある

太陽光発電システムは、以下のように大きく分けることができます。

  1. 太陽光を電気に変換する太陽光発電システム
  2. 太陽の熱を利用して発電を行う太陽熱発電システム

日本では「太陽光発電」のイメージが強いですが、海外では「太陽熱発電」の開発も進んでいます。

太陽熱発電は、天候や風に左右される太陽光発電・風力発電に比べて発電量が安定しており、発電効率も太陽光発電よりも優れていることがほとんどです。

しかし、たくさんの光を集中させないと高温にならないため、太陽熱発電には多くの集光ミラーが必要となり、太陽光発電に比べて広大な敷地面積や設備が必要となります。

スペインの昼夜問わず発電し続ける集光型太陽熱発電所「ヘマソラール」

国の援助と外国からの投資を受け、2011年にアンダルシアの平原に立地するヘマソラール(Gemasolar)発電所が建てられました。集光型太陽熱発電所であり、水より冷めにくく、熱を蓄える塩を活用した発電蓄熱機能をフル活用し、太陽に左右されることなく昼も夜も曇りも適当な量だけその都度エネルギーを使うことができます。その仕組みは以下のとおりです。

  1. 円形状に配置された2600枚の反射鏡が追尾装置(ヘリオスタット)によって140mのタワーの上に太陽光を集め、容器に入った溶融塩を用いて蓄熱する
  2. タワーに集まる光の強さは地球に届く太陽光の1000倍になり、溶融塩の温度は摂氏500度を超える
  3. この熱で蒸気を作ってタービンを回して昼夜を問わず発電し続ける

ヘマソラールは、エネルギー貯蔵機能を全く持たない発電所よりも60%以上多くエネルギーを生産することが可能です。

  • 通常の太陽光発電所の年間稼働時間:1,200~2,000時間ほど
  • ヘマソラール:6,400時間

暗闇から電気を作り出す「夜間太陽電池」の技術

暗闇から電気を作り出す「夜間太陽光発電」の技術は「太陽熱発電」を応用したものになります。

地球は日中に太陽から熱を得ていますが、これが続くと温度は際限なく上昇してしまいます。気温が一定の範囲に保たれているのは、夜間に地表から夜空に対して赤外線を放出し、熱を排出しているためです。この現象を放射冷却といいます。

夜間太陽光発電は放射冷却の「熱が温度の高い方から低い方へ放射される」ことを利用しているため、「熱移動のある環境」と「熱移動から電力をつくるデバイス」があれば発電します。

  • 太陽熱発電:太陽の熱と地面の冷たさによる温度差を発電に利用
  • 夜間太陽光発電:夜の大気の冷たさと地上に残る太陽熱の温度差を利用

夜間に発電など、本当にできるのでしょうか。太陽熱発電を応用した夜間太陽光発電に関する研究結果を発表している例を2つ紹介します。

Shanhui Fan教授とスタンフォード大学の研究者らによる「夜間電力発電」

スタンフォード大学の研究者らは、市販の太陽電池に手を加えることで、携帯電話の充電やLED電球の点灯に必要な電力を夜間に作り出すことができる太陽電池を作ることに成功しました。この研究成果は電気工学科のShanhui Fan教授によって2022年4月にApplied Physics Letters誌で発表されています。

太陽光発電の放射冷却現象を利用して、Fan教授らは2019年にLED電球の点灯に十分な電力を発生させる装置を開発し、このアイデアを太陽電池と統合させました。その仕組みは以下のとおりです。

  1. 温度差で発電する市販の熱電発電モジュールを、シリコン太陽電池の下側に取り付ける
  2. 夜間、太陽電池が熱を放射すると、その温度は周囲の空気より数度低くなり、太陽電池側は冷たく、空気側は熱いという温度差が熱電発電モジュールに生じる
  3. 1㎡あたり平均50mWを発電(実験結果)

市販のソーラーパネルの日中発電量(1㎡あたり200W)に比べはるかに少ないです。

しかし、1954年に初めて実用化された太陽電池のエネルギー変換効率は2%でした。現在では23%まで改善されているので、長い目で見れば夜間電力発電も実用化の可能性は十分あるといえます。

断熱材と熱電装置をさらに改良し、より多くの熱を放射するよう太陽電池を設計することができれば、太陽光の吸収能力を犠牲にすることなく、理論的には1㎡あたり1W(1,000mW)まで発電できるとされているので、非電化地域や低資源地域でのバックアップ電源や低出力密度の用途としての可能性は十分あるといえるのではないでしょうか。低出力密度の用途として考えられる例は以下の通りです。

  • 夜間の照明
  • 機器の充電
  • センサーや監視装置の常時オンライン接続など

また、日中に発電した太陽光をバッテリーで蓄電するよりも、低コストで長期的に活用できる可能性もあるので、再生可能エネルギー発電の小さな可能性として今後期待が高まります。

ニコラス・J・エキンス・ドークス氏ら研究チームによる「赤外線放射を利用した夜間発電機」

オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学(UNSW)に所属するニコラス・J・エキンス・ドークス氏ら研究チームは、暗視スコープに利用されている材料を使って、赤外線放射を利用した夜間発電機の開発に成功しました。研究の詳細は、2022年5月9日付の科学誌『ACS Photonics』にて発表されています。

暗視スコープは、全ての物体からその温度に応じた量が放射されている、人間の目に見えない赤外線を赤外線センサーが受信して電気信号へと変換したのを可視化します。

今回の研究では、赤外線センサに使われている素材「HgCdTe(テルル化カドミウム水銀)」を採用し、夜間発電機として応用したのです。

研究チームが新しく開発した半導体デバイス「thermoradiative diode」(熱放射ダイオード)は、赤外線の放射から電力を生成可能です。そのため、放射冷却のプロセスに挿入することで、夜でも発電できるのです。

  • 太陽光発電:太陽光エネルギーが地球に入ってくるときに発電
  • 今回開発された熱放射ダイオード:太陽光エネルギーが地球から出ていくときに発電

現段階では僅かな電力しか生成できませんが、将来さまざまな分野で活躍する可能性を秘めています。

今回の実験により赤外線放射による発電が実証されましたが、現段階では発電量は1㎡あたり2.26mWであり、一晩中発電しても、朝に一杯のコーヒーを沸かすことさえできず、実用化への道のりはまだまだ遠そうです。しかし、理論的にはソーラーパネルの10分の1程度の電力を生み出すことが可能といわれており、今後に期待です。

日本初の「夜間売電型」太陽光発電システム

2017年2月1日、伊佐市大口太田の市有地に大型蓄電池を併設した日本初の夜間売電型のメガソーラー(大規模太陽光発電所)が稼働されました。

太陽光パネルの設置容量は約1.2MW、パワーコンディショナーの定格出力は1MW、Liイオン蓄電池の容量は6.5MWhです。太陽光発電とパワーコンディショナーの間に蓄電池を繋げることで、日中に発電する電気を蓄電池に溜めて、決まった時間に貯めた電力を均等の定格で売電するという画期的なものでした。

  • 発電所名「ハヤシソーラーシステム高柳発電所」
  • 太陽光パネルからの発電電力の全量を夜明けから日中の午後6時まで蓄電
  • 夕方の午後6時から夜の午後12時までの6時間で蓄電池を放電
  • 充電電力の全量を九州電力の系統に送電(送電には固定価格買い取り制度(FIT)適用で買取価格36円/kWh)

この当時の蓄電池は、ほとんどがAC側に付ける蓄電池(ACリンク)でした。そのため、「太陽光→パワーコンディショナー→蓄電池→グリッド」の場合、電線から流れてる電気も蓄電池に貯めることができてしまいます。

そうならないために、太陽光発電とパワーコンディショナーの間に蓄電池を繋げる「DCリンク」という方法が採用されました。

現在実証的に運用している蓄電池併設メガソーラーは、「ACリンク」を採用しており、「ハヤシソーラーシステム高柳発電所」は、全国でも珍しい「DCリンク」による「蓄電池併設型メガソーラー」となりました。建設費は約7億円で、そのうち約2億4000万円を政府の補助金制度を利用しています。

  • ACリンク:系統連系用太陽光発電インバータ(パワコン)で太陽光発電からの直流を交流に変換し(DC→AC)、双方向インバーターで交流から直流に変換(AC→DC)したものを蓄電池に貯めるシステム
  • DCリンク:DC/DCコンバーターを通じて太陽光発電を直流(DC)のまま蓄電池に貯めるシステム
  • (インバータは直流を交流に変換する機械。コンバータは変換の仕方が3種類ある)

まとめ

太陽光と夜間太陽電池について解説してきました。以下まとめになります。

  • スペインの集光型太陽熱発電所「ヘマソラール」は塩を活用した発電蓄熱機能と太陽熱発電システムをフル活用し、昼夜問わず発電し続ける
  • 夜間太陽電池は夜の大気の冷たさと地上に残る太陽熱の温度差を利用するため、「熱移動のある環境」と「熱移動から電力をつくるデバイス」があれば発電可能
  • 夜間太陽電池は実用化には程遠いので、太陽光発電とパワコンの間に蓄電池をつなげ、日中に蓄電した電力を決まった時間に均等の定格で売電する「夜間売電型」太陽光発電がオススメ

夜間光電池の研究は進んでいるようですが、実用化にはまだほど遠いです。そのため、夜間にも太陽光発電を有効活用したい場合は、太陽熱発電か蓄電池併用が良いでしょう。太陽熱発電はまだ時間がかかるでしょう。2021年時点で夜間に太陽光発電を有効活用したいのであれば、蓄電池を併用するのがおすすめです。太陽熱発電は発電力としては安定的ですが、広大な敷地面積や設備など高額な費用が必要です。なので、日中に発電した電気を蓄えておいて、電気料金が安い夜間に使用、または売電する蓄電池併用をオススメします。

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