2009年に売電期間10年という制限のある余剰電力買取制度がスタートしました。10年目である2019年には「売電期間の満了」を迎えた設置者が多く出ました。期間満了後も売電できるかという事については多くの関心を集め、太陽光発電業界ではこれを「2019年問題」と呼んでいます。今回は太陽光と2019年問題について解説します。
2019年問題とは
2009年に始まった余剰電力買取制度が10年目の2019年に満了した後、余剰電力の取り扱いをどうするかといった問題を「2019年問題」といいます。
2009年当時の売電価格は48/kWhと非常に高かったため、太陽光発電システム設置は広く普及されて行きました。そのため、2019年に売電期間満了を迎える設置者は56万世帯にまでのぼりました。
「2019年問題」は何故「問題」なのか。それは、2009年から2015年に設置した人にとって、設置時に想定していたメリットと大きく相違が生じるからです。
余剰電力買取制度を政府が発表した際、売電期間として約束されている10年間と11年目以降の売電価格を予想した数字を発表していたのです。
2009年当時、11年目以降の売電価格として家庭用電力料金単価と同等の24円/kWhが想定されていました。そのため当時の多くの業者はその値段でシミュレーションを作成し、顧客に提案していました。しかし、2016年、政府の想定する11年目以降の売電価格は卸電力取引市場価格と同等の11円/kWhに引き下げられてしまったのです。そのため、2016年以前の設置者はたとえ売電期間である10年間を過ぎた後に売電できたとしても、設置当初の想定よりも低い価格で売電する事になってしまいました。当初見込んでいた売電価格よりも下がる事によってメリットは大きく毀損なわれ、10kW未満で太陽光発電を設置したユーザーは2019年問題によって多大な影響を受ける事になりました。「11年目以降の売電価格が当初想定していたよりも安くなった」事こそが、「2019年問題」の本質的な問題と言えるでしょう。
売電価格が48円/kWhから11円/kWhに下がると、どれぐらい売電収入が減少するのでしょうか。
・5kWの太陽光発電の場合
・太陽光発電の年間発電量はおおよそ1kWhあたり1,000kWhである
・おおよそ年間の発電量は5,000kWhとなる
・3割りを自家消費に使用したとすると、売電できるのは3,500kWh
・48円-11円=37円
・3,500kWh×37円=129,500円
よって売電収入は年間129,500円も減少してしまいます。
2019年問題の影響がなかった設置者
①2016年以降の設置者
②2009年11月以前の設置者
③2012年7月以降に10kW以上の太陽光発電を設置した人
<h4>①2016年以降の設置者</h4>
2016年以降の場合、販売者が設置者に提案する際に提示するシミュレーションを24円/kWhで作成する事がなくなったため、設置者が設置当時にイメージしていたシミュレーションから大きく外れることがないからです。
②2009年11月以前の設置者
余剰電力買取制度が施工された2009年11月以前は「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(RPS法)に基づき、住宅屋根に太陽光発電を設置し、売電を行っていました。RPS法とは、一定割合以上の再生可能エネルギーによる電力の買取を電力会社に対して義務付ける法律です。RPS法は高い価格で売電して収益を出すという前提がなく、売電価格も買電価格と同じく24円/kWhでした。しかし、余剰電力買取制度へ移行し、売電価格は48円/kWhに引き上げられたため、売電価格が倍近くに増えました。そのため、11年目以降に価格引き下げになっても設置当時よりもメリットが出ると考えられています。
③2012年7月以降に10kW以上の太陽光発電を設置した人
2012年7月に固定価格買取制度(FIT)による全量買取が開始され、10kW以上のシステムも普及が進みました。10kW以上の場合、FITによる売電期間は20年であり、満了期間は2032年以降です。ただし、2012年7月以前に10kW以上のシステムを設置した場合、余剰電力買取制度が該当されるため、売電期間は10年間であり、2019年問題の対象となってしまいますのでご注意ください。
11年目以降の選択肢
11年目以降の選択肢として大きく2つあります。
①自由・相対契約による売電
②自家消費
①自由・相対契約による売電
11年目以降も大手電力会社へ売電を継続する以外にも、新電力会社やメーカーに売電するという選択肢もあります。2016年4月に電力の小売が全面自由化されました。以前は、地域によって電気を供給する電力会社が決まっていましたが、現在では、地域の枠を超えて電力を販売できるようになりました。電力自由化に伴って、さまざまな会社が電力の小売に参入してきました。新たな会社が参入することで競争が活性化し、さまざまなサービスや料金プランが登場しています。そのため、各家庭のライフスタイルや価値観に合わせた電力会社の選択ができるようになりました。電気の「購入契約」と「売電契約」は別の契約です。そのため、電気の購入先を変えても、太陽光発電などの売電契約は変わりません。つまり、売電先は変えずに、電気購入先だけを変えることができるのです。そのため、大手電力会社10社は「新電力」と呼ばれる他の小売電気事業者との競争にさらされるようになりました。
電気の買取価格は電力会社によって異なり、11年目以降も買い取る方針を表明している主な大手電力会社と買取価格は以下の通りです。
大手電力会社 | 11年目以降の買取価格 |
北海道電力 | 8円/kWh |
東北電力 | 9円/kWh |
東京電力 | 8.5円/kWh |
中部電力 | 8円/kWh |
北陸電力 | 8円/kWh |
関西電力 | 8円/kWh |
中国電力 | 7.15円/kWh |
四国電力 | 7円/kWh |
九州電力 | 7円/kWh |
沖縄電力 | 7円/kWh |
新電力会社やメーカーも11年目以降の買取を表明しています。たくさんありましたので、その内からピックアップしました。
新電力会社やメーカー | 11年目以降の買取価格 |
一条工務店 | 11円/kWh |
出光昭和シェル | 9.5円/kWh 11.5円/kWh(出光昭和シェルの電気プランへの加入が必須) |
Looopでんき | 使用電力量分として、実質29.50円/kWhで相殺 |
積水ハウス | 11円/kWh |
ENEOS | 11円/kWh(買取方法に現金かTマネーかを選べる) |
スマートテック | 11.5円/kWh |
NTTスマイルエナジー | 8.4円/kWh(商品の所有無) 9.5~15円/kWh(対象商品所有) |
ヘーベル電気 | 10円/kWh 12円/kWh (買取価格12円/kWhは、旭化成ホームズグループの蓄電池購入・設置者が対象) |
トラストバンク | 寄附/お礼品 |
②自家消費
現在電気代の値上がりが続いており、売電から「自家消費」に移行しようという動きも活発化しつつあります。「自家消費」は11年目以降売電するよりもお得です。何故なら、売電する分の電力を自家消費すると、売電価格が下落していても影響を受けないからです。そこで、余剰電力を自家消費するための方法を3つ紹介します。
①蓄電地の導入
②エコキュートの活用
③電気自動車(V2H)への充電
蓄電池の導入
太陽光発電と蓄電池を併用する自家消費は2019年問題を解決する手段として注目されています。通常、太陽光発電は太陽が出ていない夜間は発電ができず、電力会社から消費電力を購入しなければいけません。しかし、日中に発電して売電価格の下がった電気を蓄電池に貯め、夜間などに使う事で電気代削減に役立てる事ができます。そのため、天候不順が起こらない場合、電力会社からほとんど電力を買わない生活も可能となるでしょう。
また、2019年対象者は太陽光発電設置から10年が経過していますので、パワーコンディショナ(パワコン)の交換時期が近づいてきています。太陽光発電と蓄電池のどちらにも対応したハイブリッドパワコンを導入する事で、パワコン交換費用を浮かせることができるでしょう。
②エコキュートの活用
エコキュートは太陽光発電システムと相性の良いオール電化機器です。低いコストで給湯できますが、日中の電気代が割高という弱点があります。何故なら多くのオール電化向け電気料金プランは日中の電気料金単価が高く設定されているからです。
しかし、太陽光発電とエコキュートを組み合わせる事によって、電気代の安い深夜にお湯を沸かし、日中は太陽光発電システムによって消費電力を賄うことで光熱費を削減する事が可能です。別の方法として、従来夜間に行っていたエコキュートの湯沸かしを、日中に作り出した太陽光発電の電力を使って行うよう切り替える方法も提唱されています。余剰電力エネルギーをお湯として蓄える事によって、電気代を節約する事ができるでしょう。太陽光・エコキュート・蓄電池を併用すると、自家消費率を98%まで高める事ができると言われています。
最新のエコキュートの中には太陽光発電に対応している機種がいくつかあります。一般的に給湯器の寿命は10年程度と言われています。そのため、寿命が近くなってきているのならば、太陽光発電対応のエコキュートへの交換がおすすめと言えるでしょう。
③電気自動車(V2H)への充電
電気自動車(V2H=Vehicle to Home)とは、電気自動車に貯めた電気を家庭に送る事ができる機器の事です。V2Hを活用する事によって、太陽光発電で作った電気を電気自動車に貯め、移動に使わなかった分は家庭で消費することができます。
まとめ
太陽光発電と2019年問題について解説してきました。以下、まとめとなります。
・2019年問題とは、2009年に始まった余剰電力買取制度が10年目の2019年に満了した後、余剰電力の取り扱いをどうするかといった問題
・2019年問題に直接関わってくるのは、2015年以前に太陽光発電を設置した人
・2015年以前に設置した人は蓄電池やエコキュート、V2Hなどの自家消費率を高める機器を導入してみましょう
太陽光発電購入から11年が過ぎると、余剰電力の買取はほぼ7~10円くらいでしょう。電力会社から電気を購入するよりも各段に安いため、太陽光発電の電気は売るよりも自家消費する方が大変お得だといえるでしょう。今後は、昼間に太陽光発電の電気を使い切り、夜はなるべく使わず、昼間の余剰電力や電力会社から深夜料金で安く買った電気を使うというライフスタイルが進んでいくでしょう。蓄電池やエコキュートを使えば、時間に関係なく発電した電気とお湯を消費する事が可能です。また蓄電池導入には地方自治体からの補助金を受けられる場合があるので調べておくのが良いでしょう。