太陽光パネルとウイグル問題! シリコン関連製品輸入禁止で高騰化する太陽光パネルとそれ以外の影響とは?

太陽光パネルはシリコン半導体の集積体であり、半導体が光に反応して発電する仕組みになっているので、シリコンが必須となります。シリコンの生産シェアは8割が中国で、その半分ほどがウイグルで採掘・製造されています。そのシリコンの採掘に際して強制労働が行われているのではないかと数年前から問題になっていました。
ウイグル自治区での強制労働の疑いによるアメリカ禁輸措置の影響を受けて、太陽光パネルの価格が日本でも上がっています。
今回は太陽光とウイグル問題について解説します。

ウイグル問題とは

ウイグル族とは、モンゴル高原からトルキスタン方面に移住したトルコ系民族のひとつです。現在は中国の新疆ウイグル自治区と旧ソ連邦中央アジアを主たる居住地としています。

2021年に入り、中国・新疆ウイグル自治区にあるシリコン工場で人権侵害が起きているとの報道が、欧米メディアで相次ぎました。CNNは、イギリスの大学教授らの報告書を引用する形で、中国の部品会社「合盛硅業(ホシャイン・シリコン・インダストリー)」の「実態」を報道しました。

CNNの報道によると、合盛硅業に代わって地方政府が行っている労働者の採用活動は、「非自発的な労働を示唆する抑圧的な戦略に基づくもの」とされ、肉体労働者が1トンにつき42人民元(約700円)でシリコンを手作業で砕いているというものでした。

労働者は軍事関係企業の訓練を受けさせられている疑いもあり、合盛硅業の工場の近くにはイスラム教徒の少数派ウイグル族の「再教育」のための収容施設とみられる建物が確認されたそうです。

中国側はこれまで人権侵害を全面的に否定しています。

アメリカがシリコン関連製品輸入禁止を命じた5社

2021年6月24日、アメリカのバイデン政権はウイグル地区に対して強制労働の疑いがあるとして、中国の合盛硅業から太陽光パネル原材料であるシリコン関連製品の輸入禁止を命じました。

綿製品やトマトの輸入禁止に続く措置で、サプライチェーンから中国製品を排除する狙いです。「脱炭素」の産業競争で台頭する中国は報復も辞さない構えで、米中対立が深まりそうな情勢となるでしょう。

合盛硅業は新疆ウイグル自治区に製造拠点を持つ多結晶シリコンの製造大手です。輸入禁止は、原料シリコンだけでなく、シリコンを使った太陽光パネルも含まれました。太陽光パネルや自動車、電子機器に幅広く使われている部材で、日本など中国以外からの輸入品でも、同社製の部材が含まれれば禁止対象となるかもしれません。

同時にアメリカ商務省が出した輸入禁止対象リスト「エンティティ・リスト」は以下の通りです。

・合盛硅業股分有限公司(ホシャイン・シリコン・インダストリー)
・新疆大全新能源(ダコ・ニュー・エナジー)
・東方希望集団(イースト・ホープ・グループ)傘下の新疆東方希望有色金属
・新疆協鑫新能源材料科技(新疆GCLニューエナジーマテリアルテクノロジー)
・新疆生産建設兵団(XPCC)

上記にアメリカ製品を輸出する際には商務省の許可が必要となりました。

バイデン政権が取った行動

アメリカのバイデン政権が発表した措置は特定企業への制裁にとどまりますが、上院外交委員会は包括的な制裁を定めた「ウイグル人強制労働防止法案」を24日に可決しました。

2021年6月13日にイギリスで閉幕した先進7カ国首脳会議(G7サミット)の声明には、「我々は、農業・太陽光・衣類の部門を含め、グローバルなサプライチェーンにおいて、あらゆる形態の強制労働の利用を懸念する」と、ウイグルを念頭に強制労働の根絶が盛り込まれました。

バイデン政権は各国に「脱中国経済依存」を求め、それに対し中国は猛反発し、「反外国制裁法」を盾に、報復措置を外交カードとして使う可能性もありえます。

太陽光パネルの7割は中国

中国は巨額の政府補助金で太陽光関連製品の輸出大国となり、太陽光パネルの国別生産割合では中国が7割を占めます。

2020年の多結晶シリコンの生産能力は、中国が年間42万トンで、世界で75%のシェアを占め、このうち、新疆ウイグル自治区に工場をもつ中国メーカー4社の生産能力は計26.7万トンです。

つまり、新疆ウイグルだけで世界の48%の生産能力を持つことになります。
2位以下の日本、アメリカを引き離していて、コスト面からも中国は競争力が非常に高いです。

太陽光パネル製造に欠かせない部材「ポリシリコン」の世界シェアの半分近くがウイグル産といえるでしょう。

アメリカの合衆国税関・国境警備局(CBP)によると、アメリカではトランプ前政権が安価な外国製パネルの排除を狙って追加関税を導入したものの、効果に乏しく、過去2年半の間に合盛硅業の素材を使用した製品を少なくとも1億5,000万ドル輸入しており、直輸入も600万ドルあると推定しています。アメリカで販売されているソーラーパネルのうち輸入品が約85%を占めており、2020年に80億ドル以上のソーラーパネルを輸入していました。

輸入禁止の即日発効の命令により、合盛硅業のシリコンをすべて、または一部に使った輸入品を輸入してはならないとされました。その一方でアメリカCBPは合盛硅業のシリコンがどこに使われているのかを定量的に示すことは困難だろうと予測しています。合盛硅業は世界最大のポリシリコンメーカー8社であるために冶金(やきん)グレードのシリコンを提供しており、どこのメーカーのどこに使われているかを示すことは非常に難しいからです。

ウイグル問題がアメリカに与えた影響

多結晶シリコンのウイグル強制労働問題は、グリーン政策を推し進めるアメリカで以前から問題視され、その関心は高まっていきました。2021年1月にアメリカの団体が対応を求めたり、3月に上院議員からアメリカの太陽光パネルのウイグル依存度を米国太陽光発電協会(SEIA)に調査を求めたりしていました。

メーカーに強制労働のイメージが少しでもあると、欧米の顧客の多くは離れるといわれるほど、人権とビジネスインパクトは密接につながっています。
そうなると、強制労働問題が発生しているウイグル製のシリコンや太陽光パネルは使わないでおこうという考えが広がっていきます。

大手ソーラーバネルメーカーのジンコ・ソーラーのアメリカ部門は、アメリカで販売、設置されるソーラーパネルにウイグルから調達された部品や材料は含まれていないとコメントし、ジンコ・ソーラー社製のパネルを使用しているsPower(再生可能エネルギー発電会社)も使用パネルに強制労働は関係ないと述べ、ブランドイメージが損なわれないように対策しています。

EUのデューデリジェンス

EUではサプライチェーンにおけるデューデリジェンス義務を導入する声が高まっています。

「デューデリジェンス(注意義務)」とは、調達元の企業が自社や取引先を含めた供給網(サプライチェーン)において人権侵害や環境汚染のリスクを特定し、責任を持って予防策や是正策をとることを意味します。

ドイツでは2021年6月25日に「サプライチェーンにおける企業の人権に関するデューデリジェンスに関する法律」が可決され、2023年1月から施行されます。

デューデリジェンスは再生可能エネルギープロジェクトと絡んで求められることが多いです。その理由は、風力発電や太陽光発電の立地における先住民コミュニティの問題や、リチウム電池やニッケル電池、今回のシリコンのような鉱物採掘の強制労働問題、鉱山の権利問題が常に関連するからです。

日本の太陽光パネル価格にも影響

アメリカのシリコン輸入禁止措置に市場はすぐに反応しました。

シリコン価格は1年間で5倍に高騰し、日本で使うパネル価格も3割から4割上がりました。日経新聞によると、現在は1Wあたり30〜35円前後だそうです。パネルの価格上昇は太陽光発電プロジェクトの建設費にダイレクトに結びつきます。

一般社団法人「太陽光発電協会」によると、2020年度国内向けの太陽光パネルの出荷量は512万キロワット分に上り、このうち8割強が中国など海外で生産されるとしています。
そのため、中国製シリコンを使えなくなれば、太陽光パネルの価格高騰は避けられません。

太陽光発電パネルや半導体素材に使われるポリシリコンは、ウイグルで世界の半分近くが生産されており、制裁が本格化すれば、日本の電機メーカーに及ぶ影響も甚大といえるでしょう。

太陽光以外にも影響を受ける日本

オーストラリアの安全保障シンクタンク『豪戦略政策研究所(ASPI)』は「ユニクロ、無印良品のほか、ポリシリコンを念頭にウイグルの強制労働で三菱電機、ソニー、東芝などが受益している企業である」と2020年3月に発表しました。

これを受けたユニクロや大手電機メーカーは「直接取引はないことを確認した」と主張していますが、原材料の調達先がウイグルかどうか、再確認が必要となります。

2021年1月、「綿」をめぐって新疆ウイグルでの強制労働との関係を疑われ、「ファーストリテイリング」が展開するユニクロの綿製シャツが、米税関・国境警備局(CBP)によってロサンゼルス港で輸入を差し止められる事態に発展しました。

大手下着メーカーのグンゼは、6月中旬、生産工程で人権侵害は確認されていませんが、国際的に広がる懸念を考慮して新疆ウイグル産の綿花の使用を中止する方針を明らかにしました。

食品会社カゴメは、これまでの輸入分は「人権侵害が行われている環境で生産されたものではないと確認している」とし、2021年中に新疆ウイグル産のトマトペーストをソース類に使うのをやめる方針です。

G7の中で、日本だけが中国の人権侵害に対する制裁に加わっておらず、ウイグル産の排除に対して日本企業は慎重な対応を取っています。この先、米中摩擦が激化し、ウイグル産を排除する動きが増々強くなると、日本の立場は厳しいものになるかもしれません。

まとめ

太陽光とウイグル問題について解説してきました。以下、まとめになります。

・アメリカでは人権とビジネスインパクトは密接につながっているため、強制労働など悪いイメージがつくとお客さんが離れてく
・ウイグル問題に対するアメリカのシリコン輸入禁止措置によってシリコン価格は1年間で5倍に高騰し、太陽光パネルの価格は日本では3~4割値上がりした
・世界で太陽光パネル生産48%を占める新疆ウイグルの製品が使えなくなると、太陽光機器メーカーだけでなく、ユニクロなどたくさんの企業が打撃を受ける

強制労働などによる人権侵害は真実ならば放置しておくわけにはいきません。ウイグル問題は太陽光パネルやその材料、部品だけでなく、食品メーカー、アパレルメーカー、地球温暖化対策にまで深刻な課題を突き付けています。
今回のウイグル問題を受けて、世界全体で何かしらの対策を考える必要があるかもしれません。

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