太陽光発電による固定価格買取制度(FIT)が開始された当初、コンクリートの基礎に支柱架台を固定する方法がメインでした。しばらくして、鉄製の大きなドリルのような杭打ち基礎の発電施設が増え始め、現在では野立て太陽光発電の主流となり、全国に広く普及しています。杭打ちの基本的な知識を知っておくと、購入時に無駄な費用を回避できるかもしれません。今回は太陽光の杭打ちについて解説します。
杭打ちに使われる種類や特徴
杭はスチール(鉄)製であり、いくつかの種類があります。太陽光発電施設建設のピークが過ぎた今でも国内外の資材メーカーが新製品の販促を進めています。主に使用される杭資材は以下の通りです。
スクリュー杭
1つ目は「スクリュー杭」です。
スクリュー杭は太陽光発電施設に最も使用されている杭資材です。グランドスクリュー杭とも呼ばれています。
杭の先端からドリルのようなツバが加工されていて、地表を抑えながら回転させれば地面に差し込みます。
全長の約半分がスクリュー加工されており、防錆対策として全体に亜鉛メッキが施されています。
メーカーにもよりますが、杭の全長は幅広く120~300cmまであり、土地の形状や土質に合わせることができます。
鋼管杭
2つ目は「鋼管杭」です。
鋼管杭はスクリュー杭では対応できない時に利用される、主に受注生産の杭素材です。
筒状のロケット型で杭の頭を手打ちハンマーやバックホウ専用のアタッチメントで強打し、地中に打ち込みます。
引き抜き強度は、丸鋼管を打ち込んだ時の強度と比べ約2.5倍と高く、スクリューが差し込めないような難地盤でも打ち込むことが可能です。
太陽光発電だけでなく幅広い用途に使用されており、全長が60cm~4mまでのラインナップが揃っています。
H鋼杭
3つ目は「H鋼杭」です。
H鋼杭は最も頑丈ですが高コストな杭素材です。普段は大型建築物の小柱や梁などに用いられています。専用のアタッチメントを設置した大型のバックホウでH鋼杭を垂直に打ち込みます。H鋼杭は肉厚で重量もあるため頑丈さは3つの中で一番ですが、材料費や施工費のコストが高くなります。
粗悪スクリュー杭の対処法
全国で出回っているスクリュー杭の大半は中国産ですが、国産に劣らず高クオリティです。しかし、中には粗悪品もあり、仕入業者や施工会社を困らせています。そのため、粗悪なスクリュー杭だった場合の対処法を紹介します。
杭の肉厚が仕様書通りかできる限り検品する
1つ目は「杭の肉厚が仕様書通りかできる限り検品する」ことです。
スクリュー杭は筒状ですので、厚みが増すほど強度がアップします。一般的なスクリュー杭の厚さは外形が76Φのものであれば、およそ2.5~3mmです。この範囲の厚さがあれば、ほとんどの場所で十分な強度が保持できるでしょう。
しかし、中には2.6mmと記載してあるにもかかわらず、2mm以下のものが納品され、地中に打ち込む際の抵抗に耐え切れずに引きちぎれてしまう場合があります。
トラブル防止のために、納品されたスクリュー杭は出来る限り検品しましょう。
一部メッキが剥がれている場合はエポキシ系の防錆塗料を塗る
2つ目は「一部メッキが剥がれている場合はエポキシ系の防錆塗料を塗る」ことです。
施工後のスクリュー杭のほとんどは、約3分の2が地中に埋まっている状態です。
地表との境目部分は腐食しやすく、スチール製であるため腐食による劣化は免れません。防食措置をしていないと錆によってボロボロになり強度不足になってしまいます。
そのため、杭全体にしっかりと溶融亜鉛メッキ(通称ドブメッキ)が施されているかチェックしましょう。たっぷりメッキ加工されているものであれば安心できます。
しかし、中には一部メッキが剥がれている場合があります。その場合は市販されているエポキシ系の防錆塗料を塗るなどの対応をしましょう。
微妙変形杭やスクリュー部分のツバが欠けているものは使わないよう確認する
3つ目は「微妙変形杭やスクリュー部分のツバが欠けているものは使わないよう確認する」です。
粗悪品の中には、微妙に変形した杭やスクリュー部分のツバが欠けているものがよくあります。目視では確認しづらい変形でも、回転させながら打ち込むと容易にわかります。
また、スクリュー部分のツバが欠けていると、多少では打ち込み作業に支障がなくても、引き抜き強度に大きく影響します。そのため、施行会社にはそのような杭は使用しないように確認しておきましょう。
スクリュー杭のメリット
スクリュー杭のメリットは以下の通りです。
材料費や施工費が安価に抑えられる
1つ目は「材料費や施工費が安価に抑えられる」です。
国産スクリュー杭はやや割高ですが、中国産の場合は他の基礎資材に比べてかなりコストを抑えられます。また、容易に施工できますので、他の工法と比較すると工事費も安価になります。
コンクリート基礎と比較すると約3分の1の工期
2つ目は「コンクリート基礎と比較すると約3分の1の工期」です。
コンクリート基礎とスクリュー杭を比較した場合、スクリュー杭を用いた杭打ち工事は約3分の1の工期で済みます。
土地の造成不要
3つ目は「土地の造成不要」です。
杭の打ち込み深度を調整することで天端のレベル(水平)が取れるため、用地に多少のデコボコがあったとしてもまっ平らに造成する必要はありません。
廃棄コスト大幅削減と容易に撤去可能
4つ目は「廃棄コスト大幅削減と容易に撤去可能」です。
スクリュー杭はオールスチール素材ですのでリサイクルが可能です。そのため、廃棄コストが大幅に削減できます。また、売電期間が終了した後も逆回転すれば容易に撤去できます。
スクリュー杭のデメリット
スクリュー杭のデメリットは以下の通りです。
地中に障害物があると打ち込めない
1つ目は「地中に障害物があると打ち込めない」ことです。
地面に大きな石や木の根っこなどがある場合、スクリューが入っていかないため打ち込めません。障害物を取り除くか、杭打ちの位置をかえる必要があります。
引き抜き耐性強度が保持できる土地でないと使用不可
2つ目は「引き抜き耐性強度が保持できる土地でないと使用不可」なことです。
杭打ちには、引き抜きに耐えられる強度が保持できる土地が必要です。そのため、真砂土のようなサラサラした砂状の土地や、ぬかるんだような軟弱地盤、地下に坑道など空洞があるような土地では使用できません。
錆による腐食を免れない
3つ目は「錆による腐食を免れない」ことです。
スクリュー杭はオールスチール製ですので、錆による腐食を免れません。特に沿岸部などでは塩害が懸念されます。
杭打ち基礎に適した太陽光用地
スクリュー杭を使った杭打ち基礎に適した土地と注意点は以下の通りです。
・赤土や粘土質などの土地で土壌がしっかり締まった土地
・障害物(岩・砂利・瓦礫・木の根など)が埋設されていない土地
・坑道などの空洞がない土地
・水はけが良い土地
・なるべく沿岸から離れた土地
調査会社に地質や引き抜き強度など地盤調査依頼する
1つ目は「調査会社に地質や引き抜き強度など地盤調査依頼する」ことです。
スクリュー杭が適した用地に刺した場合、地中のツバによって引張強度が保持され、逆回転させなければ容易に引き抜くことはできません。
しかし、ゆるい地質に差し込んでしまうと引き抜き強度が十分保持できません。最悪、杭ごと架台が倒壊してしまう可能性があります。
スクリュー杭に適した土地かどうか確認するために、専門の調査会社に地盤調査を依頼した方がいいでしょう。
調査会社はボーリング機を用いてその土地の地質や引き抜き強度を調査します。調査する地点数は多いほど良く、50kWの発電所の場合、4地点程度が目安となります。強度はN値と呼ばれ、N値が4~7がスクリュー杭に適している用地といえます。
傾斜地でも杭基礎は可能か確認する
2つ目は「傾斜地でも杭基礎は可能か確認する」ことです。
スクリュー杭は平坦な土地だけでなく、傾斜地でも多くの施工実績があります。
支柱架台との接合部にも様々な種類があり、容易に施工できるように工夫されています。
太陽光設備を設置したい土地が傾斜地である場合、杭基礎は可能か確認しましょう。
スクリュー杭に必要な特殊道具と施工方法
スクリュー杭に必要な特殊道具と施工方法は以下の通りです。
専用アタッチメント「オーガ」
1つ目は「専用アタッチメント『オーガ』」です。
スクリュー杭の打ち込みにはオーガが必要となります。
専用アタッチメント「オーガ」とは、バックホウ専用のアタッチメントです。
オーガにセットしたスクリュー杭を地表に対して垂直に立て、回転速度に合わせてゆっくりと押し込みながら打ち込みます。
重機での打ち込み工事
2つ目は「重機での打ち込み工事」です。
バックホウに取りつけられたオーガにスクリュー杭をセットし、途中で何度か垂直かどうか確認しながら、押し回転させ、ゆっくりと差し込んでいきます。
土質や打ち込み深度にもよりますが、施工時間は1本あたり数分ですので、ベテラン職人であれば1日に100本以上の施行も可能です。
測量機(トランシット)を使った墨(位置)出し作業
3つ目は「測量機を使った墨(位置)出し作業」です。
トランシットという測量機を使って設計図通りの打ち込み位置全てに印をつける作業を墨出し、もしくは位置だしといいます。この作業は杭打ち工事開始前に必ず行う必要があります。杭打ち施工段取りにおいて最重要作業です。
測量機(オートレベル)を使って杭の天端を揃え、打ち込み深度決定作業
4つ目は「オートレベル」です。
スクリュー杭の打ち込み深度は、オートレベルという測量機を使って決めていきます。
オートレベルを使うと杭の天端を一定に揃えられますので、起伏がある土地でも綺麗に仕上げることができます。杭の天端が揃うと、並んだパネルのラインが波打たずに一直線に通ってみえます。
まとめ
太陽光と杭打ちについて解説しました。以下、まとめになります。
・主に使用される杭資材はスクリュー杭、鋼管杭、H鋼杭
・杭打ち基礎に適した太陽光用地とは、障害物や空洞がなく、なるべく沿岸から離れた水捌けのよいしっかりしまった土壌の土地
・スクリュー杭設置には、特殊道具と高度な技術が求められる施工方法が必要
スクリュー杭は野立て太陽光発電において広く普及しています。他に比べ安価ですので、初期投資をできるだけ抑えたい人にとってオススメの基礎資材です。ただし、土地条件次第では不向きな資材になることもご注意ください。
安価以外にもメリットはたくさんありますので、最適な土地で杭打ちを行うことで強度の高い太陽光設備を建設しましょう。