2021年は2022年度のフィード・イン・プレミアム(FIP)開始を控え、メガクラスの太陽光発電所で固定価格買取制度(FIT)ベースプロジェクトを開発できる最後のチャンスの年です。FIPはFITに比べて高度なノウハウが求められることもあり、国内でFIPの枠組みを持った計画や構想による巨大プロジェクトの資金調達手段を組成できるか不透明な状況です。また脱FITの動きも顕在化するため、太陽光開発事業者は最後のFITプロジェクトに取り組みつつ、脱FITオフサイト型PPA(電力購入契約)スキームなどを模索する必要があります。今回は2021年度の太陽光と卒FITについて解説します。
卒FITとは
卒FITとは、固定価格買取制度(FIT制度)の買取期間が満了した案件のことです。
FIT(Feed-in Tariff)とは、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」のことをいいます。太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマス発電といった、再生可能エネルギーによる発電の普及を目的とした制度で、2012年に制定されました。
FITにより、電気事業者は家庭や事業所などの太陽光発電からの余剰電力を一定期間、火力、原子力などの他のエネルギーによって発電された電気よりも高く設定された一定価格で買い取ることを義務付けられています。
企業が再生可能エネルギーを用いた発電事業に乗り出しやすい環境や、住宅に太陽光発電設備を設置するメリットが生まれ、企業、個人を問わず、日本に再生可能エネルギーによる発電が根付くことを目指して作られました。
住宅用太陽光発電の余剰電力は固定価格での買取期間が10年、産業用太陽光発電は20年間と定められており、制度開始から期間が経過すると順次満了します。
年々安くなる買取価格
250kW以上の事業用太陽光の2021年度の買取価格は、入札により決定します。2021年度の入札回数は4回です。上限価格は11.00円(第8回)、10.75円(第9回)、10.50円(第10回)、10.25円(第11回)でした。
卒FIT住宅太陽光の余剰電力買取サービスは、旧一般電気事業者では7~9円/kWhが中心ですが、新電力では10円/kWh台も多く、スマートテックの東京・東北電力管内では11.5円/kWh、ENEOSの東京・東北・北海道電力管内では11.0円/kWhとなっています。
そのため、10.25円/kWhまで下がったFIT入札を通じた売電よりも、小売電気事業者と電力購入契約(PPA)を締結した方が経済性に優れるという可能性が出てきます。
買い手である小売電気事業者の信頼力が高く、ある程度固定した単価を相対で長期契約できれば、資金調達や管理の難易度はFITに近いものになるかもしれません。
PPAとは
PPA(Power Purchase Agreement)とは、電気を利用者に売る小売電気事業者と中規模から大規模な発電事業者の間で結ぶ「電力販売契約」の事です。
小売電気事業者はいろいろな発電事業者から電力を仕入れて利用者に提供しています。契約期間は10年以上の長期間であり、長期契約を締結することでFIT制度に依存せず再生可能エネルギー発電事業へ新規投資を行うことができ、卒FIT後も再生可能エネルギー発電事業を安定的に運営することができます。
「オンサイトPPA」を利用すると、送配電費用やFIT賦課金の負担を回避できるため、電力の売り手と買い手の双方にメリットが発生します。
「オンサイトPPA」とは、電気の利用者である需要家が発電事業者に建物の屋根などのスペースを提供し、発電事業者が発電設備の設置と運用・保守を実施、現地(オンサイト)で発電した電力を需要家に供給する、コーポレートPPAの一種です。
コーポレートPPA(Corporate Power Purchase Agreement)とは、企業(電力需要家)が独立系発電事業者(IPP)と直接、長期間の電力購入契約(PPA)を結ぶことです。
「オンサイトPPA」は、簡単にいうと「初期費用や保守費用が不要で場所を貸してプロに電気を作ってもらい、それを使うという仕組み」です。ちなみに、企業などの敷地外に再生可能エネルギー発電設備を建設し、送配電ネットワークを経由して電力を供給することを「オフサイトPPA」といいます。
2020年の卒FITや非FITに向けた動き
2020年9月、株式会社ウエストホールディングスは大阪ガスにFITを利用しない「非FIT太陽光発電所」からの電気を供給開始すると発表しました。今後3年間で1GWの「非FIT太陽光発電所」を建設する計画としており、非FIT太陽光発電所で発電した電力は大阪ガスと締結した契約に基づき、大阪ガスへ長期間供給されます。
また、2020年10月、不動産大手のヒューリック株式会社は埼玉県加須市の大規模太陽光発電所の電力をFITで売電せず、グループの小売電気事業者「ヒューリックプロパティソリューション」を通じて、ヒューリック本社ビルに電気を供給すると発表しました。
自社グループのRE100達成のため、環境価値のある「非FIT再エネ」を活用するだけに留まらず、保有する賃貸建物すべてに対し、同社が新規開発した「非FIT太陽光発電所」や「卒FIT小水力発電所」などの再エネから電力を供給することを目指し、1,000億円を投資するとされています。新たな再エネ設備への投資により再エネ総量は増え、直接CO2排出量の削減に貢献することを狙いとしています。
どちらも太陽光発電の電力を小売電気事業者の仲介で需要家に供給する形であり、売電単価や売電期間は小売電気事業者との間で相対により決めたのではないでしょうか。
日本国内の法制度では、電力需要家が発電事業者から直接電力を購入できないためこういった形になりましたが、この二つのケースは欧米に広がってきている「コーポレートPPA」に実体的に近い仕組みといえるでしょう。
一方、2020年3月、株式会社エコスタイルは自己託送モデルをサポートするサービスを開始しました。同年9月、日新電機株式会社は太陽光の電力を自己託送制度を活用して自動で運用できるエネルギー管理システム(EMS)を開発したと発表しています。
「自己託送制度」とは自家消費太陽光発電の一種であり、遠隔地の太陽光発電で発電した電気を送配電事業者の送配電ネットワークを介し、施設へと供給することを指します。屋根の上や敷地内に太陽光パネルを設置しなくても、太陽光で発電した電気を供給することができるため、屋根が老朽化しており太陽光パネルを設置することができない施設や屋根に設置するだけでは賄いきれないほどの電力を使用する施設などでも、再生可能エネルギーを供給することが可能です。
この場合、需要者と発電者が同じ主体であることが基本であり、需給バランスを維持するなどの制約がありますが、「自家消費」のためFITの賦課金を払わなくて済む経済メリットがあります。
2022年度は脱政策支援が進む
2021年は業務用建物の屋根上を利用した「自家消費型太陽光」に加え、第三者所有型による「オンサイトPPA」、非FITによる野立て太陽光発電を小売電気事業者とPPAを結んで売電する「オフサイトPPA」への取り組みが本格化されると予想されています。政策支援のなくなった全量売電型低圧事業用太陽光を新規開発して複数束ね、オフサイトPPAや自己託送スキームを応用して、再エネニーズの高い需要家に供給するというような試みが出てくるでしょう。
2022年度の買取価格と入札上限価格は10円/kWh程度が見込まれるため、こうした「脱・政策支援」がいっそう進むことも予想できます。
欧米では金融手法を使って売電価格を固定的に保証する「バーチャルPPA」(VPPA)が増えつつあります。
VPPA(Virtual Power Plant)とは、点在する小規模な再エネ発電や蓄電池、燃料電池等の設備と、電力の需要を管理するネットワーク・システムをまとめて制御することです。
複数の小規模発電設備やシステム等を、あたかも1つの発電所のようにまとめて機能させることから「仮想発電所」と呼ばれます。
再エネ発電設備での発電が増大し、電気が余る時には各戸の蓄電池への充電を増やし、需要を増大させ、電力需要がひっ迫する時には、蓄電池から放電した電気を使ったり、電力消費を抑制させるデマンドレスポンスの実施で需要を縮小させることができます。デマンドレスポンスとは、電気の需要(消費)と供給(発電)のバランスをとるために、需要家側の電力を制御することです。
国内でもこうした新しいタイプのPPAスキームへの注目が高まりつつあり、株式会社クリーンエナジーコネクトはすでに非FITの太陽光発電所を開発し、VPPAを含めたオフサイトPPAスキームや自己託送制度の活用などに関して、再エネ調達を目指す需要家企業へのコンサルティング業務を始めています。
FIPを利用しつつPPAを結ぶ選択肢
2022年から運用開始のFIPの基準価格はFITの買取価格と同じであると決まっています。そのため、もし基準価格が10円/kWhになった場合、それと市場参照価格との差がプレミアムとして補填されるため、市場参照価格によって支援額は、1円に満たないかもしれません。
しかし、「FIP電気」は「FIT電気」に比べると小売電気事業者にとっては魅力的かもしれません。なぜなら、経産省による制度設計の過程では、「FIPによる支援を受けた再エネには、環境価値が残る」からです。
FIPでは、発電事業者が自分で売電先を見つけて相対で売電契約を結ぶため、民間同士のPPAを前提に、政府がプレミアムを給付するという構造になっています。そのため、「FIT電気にない環境価値を持ち、1円でもプレミアムが補填されるFIPを利用しつつPPAを結ぶ」選択肢が選ばれる可能性も十分ありえます。たとえばFIPにVPPAを組み合わせれば、再エネ発電事業者の収益を下支えし、それによって電力需要化が環境価値を確保し、再エネ事業への資金調達を容易にすることができるかもしれません。
まとめ
2021年度の太陽光と卒FITについて解説してきました。以下、まとめになります。
・2021年度は、250kW以上の事業用太陽光の2021年度のFIT入札を通じた売電よりも、小売電気事業者と電力購入契約(PPA)を締結した方が経済性に優れるという可能性がでてきた
・2020年は卒FITや非FITに向けた動きがあり、2021年は「自家消費型太陽光」に加え、「オンサイトPPA」、「オフサイトPPA」への取り組みが本格化されると予想されている
・FIT電気にない環境価値を持ち、1円でもプレミアムが補填されるFIPを利用しつつPPAを結ぶ選択肢もあり
卒FIT後の2021年度は、太陽光開発者はFIPの詳細設計を考慮しつつ、「FIT」なのか非FITの「オフサイトPPA」なのか、「FIP+PPA」を待つか、難しい選択肢を迫られることでしょう。今後の太陽光発電業界に注目です。