住宅用の屋根に太陽光パネルが設置されているのを見て、太陽光パネルから電磁波が発生していて、悪影響を周囲に与えているのではないかと懸念する人は少なくありません。しかし、結論からいうと太陽光設備によって生じる電磁波は家電製品とそれほど差もなく、健康を損ねる可能性はほぼありません。1,000µT(マイクロテスラ)以上の非常に強い電磁波を浴びると、一時的に神経や筋肉に刺激を受けます。しかし、日常生活の範囲内で、これほど強力な電磁波を浴びる機会は基本的にありません。
太陽光による電磁波はどのようにして生まれ、数値はどれくらいなのか。今回は太陽光と電磁波について解説していきます。
電磁波とは
電磁波とは、電気が流れるところに発生するエネルギーの波の事です。太陽光に含まれる紫外線や赤外線、テレビやラジオ放送に使われる電波も波長が異なっているだけで、すべて電磁波の一種です。
電界:電気的な力を帯びた周囲の空間
磁界:磁力的な力を帯びた周囲の空間
電界と磁界が交互に発生し、影響を及ぼし合って波のように伝わるものの事であり、どちらか片方だけでは電磁波は発生しません。
電磁波の中でも高周波数のものと低周波数のものでは性質が異なり、大きく3つに分けられます。
・高周波数:放射線
・中周波数:光(紫外線から赤外線)
・低周波数:電波(サブミリ波、マイクロ波、超短波)
放射線はエックス線検査などの医療、電波は携帯電話の通信などに活用されており、電磁波は暮らしを支える上で重要な存在です。一方で使用方法や量を間違えると重大な事故に発展してしまいます。特に放射線は非常に強いエネルギーを持っているため、医学に役立ちますが、もし人体が大量に浴びた場合、細胞を傷つけ、がんや白血病などの病に侵されてしまう危険性もあります。そのため、電磁波=人体に害を及ぼすものであるという考えになってしまうのでしょう。
太陽光パネルから電気を作るだけでは電磁波は発生しない
太陽光発電は半導体を利用して、光のエネルギーを直接電気に変換します。太陽光パネルは2種類の半導体で構成されています。
・P型半導体(+が集まる)
・N型半導体(-が集まる)
半導体に光が当たると+と-の電子が発生し、この2つを繋ぐことで電気が流れます。
太陽光を電気に変え、自家消費するか送電線で電力会社へ送る時点では電磁波は発生しません。何故なら、交流は波があり、大きさとプラスマイナスが時間によって変化しますが、直流の電気はこの時間的変化がないからです。電気が流れると磁界は発生するのですが、直流は時間的変化がないので発生した磁界にも変化が起きません。つまり、電界が発生しないという事になりますので、結果として電磁波は発生しないのです。
太陽光発電を電化製品に使用するためにパワーコンディショナーを介して交流(50Hz~60Hz)に変換すると電気が流れ、同時に電磁界が発生します。
出力数十kWの事業用太陽光パネルとパワーコンディショナーから0.2m離れた位置で最大磁界レベルを計測したところ、太陽光パネルが8.33µT、パワーコンディショナーが7.49µTでした。この数値は国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が公表するガイドライン値に比べ充分小さいレベルです。
この磁界の強さは太陽光パネルとパワーコンディショナーから距離が離れるほど計測できる数値は小さくなります。パワーコンディショナーから30cm離れた所で測定した結果、電気カーペット(10.4µT)よりも少ない電磁波だったという結果が出ています。一般家庭用の太陽光設備の場合、更に測定結果は小さくなるでしょう。
パワーコンディショナーは生活空間から離れた場所に設置される場合が多く、人体に影響のあるレベルの電磁波を直接浴びる可能性は極めて低いと考えられます。電磁波の影響で人体に悪影響を与えるものだという事は証明されていません。家電レベルの電磁波しか発生していないことも含め、太陽光の電磁波はそれほど気にする必要はないといってもいいのではないでしょうか。
太陽光発電の電磁波は健康に影響はない
太陽光発電の電磁波は健康に影響はありません。その理由は2つあります。
パワコンからの電磁波は基準よりはるかに小さい
第一の理由は、太陽光発電のパワコンからの電磁波は基準よりはるかに小さい事です。
日本では「電気設備に関する技術基準を定める省令」によって200μT以上の電磁波を発生するものには規制がかけられおり、これは国際的ガイドラインとして認められている世界保健機関(WHO)のタスクグループである国際非電離放射防護委員会(ICNIRP)のガイドラインの基準と同様です。電界と磁界のうちで身体に悪影響を及ぼす可能性が示唆されているのは磁界で、磁界の発生によって生み出される磁場の強さによって上限が定められています。
太陽光発電パワーコンディショナーの電磁波は大きなもので11.92µTです。この数値は、財団法人電気安全環境研究所(JET)の電磁界情報センターが『太陽光発電システムから発生する静磁界と低周波磁界の測定結果』として発表しています。
また、JETの調査によると、住宅用太陽光発電のパワーコンディショナーの電磁波は最大で4.26µTと電磁波はわずかでした。この結果を見てわかる通り、太陽光発電による電磁波影響は健康を侵害するものではないと考えてよいでしょう。
家電よりも電磁波数値は低い
第二の理由は、一般に使われている家電よりも太陽光発電のパワーコンディショナーによる電磁波の数値が低いことです。
規制数値よりも低いから安心ですと言われても、イメージがつかめないでしょう。
具体的によく使用される家電製品を環境省が測定結果を発表しているので、そちらを参考にしましょう。
距離(cm) | 0cm | 10cm | 20cm | 30cm |
こたつ(500W) | 36.2µT | 6.35µT | 2µT | 0.853µT |
扇風機 | 339µT | 54.2µT | 16.9µT | 7.47µT |
平成16年度生活環境中電磁界に係る調査 報告書|環境省
こうして見ると扇風機が以外と数値が高いですが、10cm離れればそれほど気になる数値ではありません。ゼロ距離で顔を近づけるなどせず、部屋を涼しくさせるぐらいなら健康に被害はないでしょう。またこたつも36.2µTと気にするような数値ではありません。よって、太陽光発電のパワーコンディショナーによる電磁波は少なく、健康に被害はないといえるでしょう。
電磁波で言及されている3つのリスク
WHO(世界保健機関)による健康リスク評価において、言及されているリスクは次の3つになります。
①短期的影響
②長期的影響
③電磁過敏症
短期的影響
一つ目のリスクは短期的影響です。
高レベルの磁界に体がさらされることで、神経や筋肉への刺激が起こり、生物学的影響が生じる事は科学的に解明されています。そのため強い電磁波を浴びるのはリスクが高いといえるでしょう。
しかし、WHOは国際的なガイドラインの範囲内なら身体に悪影響を与えることはないとしているようです。
長期的影響
二つ目のリスクは長期的影響です。
長期的影響として、小児白血病やその他の病気について可能性が示唆されていますが、生物物理学的根拠に乏しいか、因果関係がないことを示唆するデータが多いです。そのため、長期的影響については科学的証拠が不十分で明確に示せないのが現状です。
電磁波過敏症
三つ目のリスクは電磁波過敏症です。WHOはこのリスクに対し、科学的根拠がないという立場を取っています。
太陽光発電による電磁波は人体の健康に害はないといいましたが、「電磁波過敏症」のように稀に反応してしまう人がいます。
電磁波過敏症とは、身の回りにある電磁波を敏感に察知し、わずかでも電磁波を浴びた場合でも心身の調子を崩してしまう症状のことです。症状としては以下の通りです。
・身体面(頭痛、吐き気、めまい、乾燥肌など)
・精神面(集中力の欠如やうつ状態を引き起こすなど)
電磁波過敏症は披露や精神的ストレスなどに誘因されて引きおこる場合があり、永遠に治らない病気というわけではありません。
しかし、その他の疲労や精神的ストレスなどに誘引されて引き起こる場合もあります。そのために効果的である対策は4つです。
・電磁波を集める金属物を身に着けない
・適度な運動をする
・ビタミンやミネラルを摂取する
・1日の中でリラックスできる時間を設ける
・スマホや電子レンジなど、電子機器に近づく時間をなるべく減らす
電磁波から少しでも距離を取れば、悪影響は受けにくくなるでしょう。そのために、太陽光発電のパワーコンディショナーを設置する場合は屋内ではなく屋外を選択する事をおすすめします。
まとめ
太陽光と電磁波について解説してきました。以下、まとめとなります。
・電磁波が発生する場所から離れれば離れる程、劇的に電磁波は弱くなるので、パワコンは生活区域から離れた場所に設置する
・太陽光発電のパワコンから発生する電磁波は、家電製品よりも強度が弱い事が多い
・どうしても気になる人は設置する場所を工夫しよう
デジタル化が進む現代社会において、スマホやタブレットはもちろん、冷蔵庫、エアコン、電子レンジ、テレビ、オーディオ機器、その他ほぼ全ての電化製品など、電磁波を発生させる製品は太陽光発電以外にも多く存在しています。どれも生活に必要なものであり、デジタル時代を生き抜くために、過度に電磁波を怖がらず、ある程度は上手に付き合っていく心持ちでいる事が必要でしょう。
太陽光発電のパワーコンディショナーから発生する電磁波は、健康被害を懸念するようなレベルではありません。それでも気になってしまうという方は、パワーコンディショナーを生活区域から少しでも遠くに設置する事をおすすめします。
一般的にはパワーコンディショナーは屋内の分電盤のそばに設置されます。この時点で電磁波は気にならない程度なのですが、さらに遠ざけるためには屋外用パワコンを選択して、屋外に設置してみてはいかがでしょうか。