半導体は自動車やエアコンなど、あらゆる電化製品、機器、設備、クラウドサービスなどに使われていて、私たちの生活に欠かせないものです。しかし、最近は半導体が不足していると言われています。半導体が不足すると、太陽光や他の業界でどのような影響を受けるのでしょうか。
今回は太陽光と半導体不足について解説します。
半導体とは
半導体とは、電気を通す物質である導体と、電気を通さない物質である絶縁体の中間の性質を持った物質のことをいいます。
半導体は温度によって電気抵抗率が変動し、温度が高くなるほど通しやすい特性があります。
また、不純物を含まない状態では電気を通しませんが、不純物が加わった状態では電気を通します。
これらの特性を活かして電流を制御し、エネルギーを別のエネルギーに変換することができます。
あらゆるものに使われている半導体
半導体は電化製品に利用されます。パソコンやスマートフォン、照明器具や洗濯機など、私たちの身近なあらゆる電化製品には半導体が組み込まれているといえるでしょう。
また、鉄道や医療機器、ATMやインターネットにも半導体が利用されているため、半導体がなければ社会インフラが成り立たないのかもしれないと言われるほど活用されています。
富士キメラ総研の「2020 先端/注目半導体関連市場の現状と将来展望」によると、今後活用が進むと思われる半導体デバイスは以下の通りです。
CPU(中央処理装置)
GPU(画像処理専門の半導体チップ)
FPGA(現場で書き換えを行うことができる集積回路)
モバイル機器用AP(通信ネットワークの末端)
自動車用SoC(セキュリティ・オペレーション・センター)・FPGA
イーサネットスイッチチップ
NAND(データが壊れていく不揮発の半導体記憶装置)
DRAM(揮発性の半導体記憶装置)
MRAM(磁気抵抗メモリ)
Wi-Fiチップ
ミリ波(30GHz帯から300GHz帯の電波)チップ
GaN RF(高周波窒化ガリウム)デバイス
イメージセンサー
TOFセンサー(光の飛行時間を計測し対象物までの距離計測を行うセンサー)
IGBT(絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタ)モジュール
SiC(シリコンカーバイド)デバイス
あまり聞きなじみのないデバイスが多いですが、大体がコンピューターの頭脳や複数のシステムのまとめ役、インターネット環境を構築するデバイスです。
半導体といってもその分類は数多く存在し、上記の品目は今後必要とされる可能性が高いと見込まれています。
半導体は脱炭素化社会実現に必要不可欠
半導体は脱炭素社会実現において重要な役割を果たしています。
電気自動車(EV)は二酸化炭素(CO2)の排出量を抑えた移動手段として期待されています。EVの車体に搭載されるモーターや電池を制御するために半導体は不可欠です。CO2を大量に排出するガソリン車にEVが取って代わるには大量の半導体が必要となるでしょう。
また、太陽光発電は光エネルギーを電池に変換する太陽電池を備えています。太陽電池と一緒に導入されることが多い蓄電池にも半導体は使われており、半導体は脱炭素化社会実現において必要不可欠だといえるでしょう。
半導体の需要は増加している
人々の生活が高度化していけばいくほど、半導体の需要は増加していきます。
半導体は私たちの生活を支える家電や機器、設備、クラウドサービスに使用されています。世界的にも、先進国、発展途上国関係なく、デジタル機器やITサービスは使われています。
そのため、半導体がなくなれば私たちの生活が成り立たなくなるかもしれません。
また、新型コロナウイスル感染症に起因して在宅で働くというスタイルが生まれたため、半導体の需要増加に加速がかかりました。その要因は以下の通りです。
・デジタル端末需要の増加
・在宅勤務や在宅による遠隔授業が始まったことで、パソコンやタブレットが必要になった
在宅勤務を最適化するのにデジタルトランスフォーメーション(DX)が重要となってきます。DXとは、簡単にいうと会社のデジタル化です。これまで手作業で行っていた業務にAIを使ったり、紙書類を電子化し、事業の効率を高めるための方法です。
DX化だけでなく、休日も外出自粛のため、半導体が使われているテレビゲーム機やネットの需要も高まっています。
私たちの生活が高度化していくという理由に加えて、新型コロナウイルス感染症によるデジタル機器の利用活性化によって半導体需要を一気に加速させていったといえるでしょう。
半導体が不足すると他の市場にも影響する
半導体が不足すれば、自社製品を生産することができなくなり、市場に需要があっても商品を流通させることができません。そのため、生産者は得られたはずの売上を獲得できなくなり、業績悪化につながる可能性があります。
アメリカの大手自動車メーカーGeneral Motorsはすべての工場を一時停止し、日本でもトヨタ自動車が国内2つの工場の稼働を最大8日間停止しました。この自動車産業における停滞は、二次的影響として鋼鉄業界の停滞を誘発するのではないかと懸念されています。
このように半導体不足の影響が他の市場にも波及する可能性は高く、経済全体にリスクをもたらすものになるかもしれません。
市場への影響
半導体が不足すると、流通する製品も数が限定され、価格は高騰するでしょう。
そうなると、消費者として取る選択肢は以下の通りです。
・製品が生産されて届けられるまで待つ
・同じ役割を果たす代理製品を購入する
・中古市場から製品を購入する
大抵の消費者は代替え案を取るでしょう。多くの消費者が同じ行動を取れば、中古市場などで受給不均衡が発生し、必要なものが必要な人のもとに届かないという状況に陥ってしまうでしょう。
半導体不足は深刻化する
半導体不足は、2020年秋ごろから言われ始めていました。そのため半導体各社は作りすぎを警戒し、保守的な生産計画を立てていました。しかし、第5世代(5G)移動通信システムの普及や、テレワーク拡大などでスマートフォン、パソコン、ゲーム機の需要が予想以上に増加、さらに自動車の生産が急回復し、半導体を奪い合う状況になってしまいました。
また、2021年2月中旬にはアメリカテキサス州を寒波と停電が直撃し、韓国のサムスン電子の半導体工場や自動車用半導体大手、ドイツインフィニオンテクノロジーズの工場停止など立て続けに起こりました。
さらに日本国内では、2つの火災が半導体不足に拍車をかけました。2020年10月に旭化成エレクトロニクスの延岡工場で発生した火災、2021年3月にルネサスエレクトロニクスの那珂(なか)工場で発生した火災です。
ルネサスエレクトロニクスの半導体はあらゆる業界で採用されており、自動車、エアコン、テレビなどさまざまな商品の生産に影響を及ぼしています。
ルネサスエレクトロニクスによると、火災以前から半導体不足の影響を受けており、製造業の仕掛け品を含む在庫は一ヵ月分しかなかったようです。火災が起きたN3棟は先端品である直径300ミリシリコンウエハーに対応した生産ラインがある唯一の建物のため、製品の3分の1は他工場での代替え生産や外部への生産委託ができません。製造装置を新たに発注するにしても、半導体不足の中で早期に調達するのは困難な状況です。
火災の影響は徐々に和らいでいっていますが、各自動車メーカーが一斉に半導体の確保に動いているため、深刻な不足はなかなか解消されないでしょう。
半導体製造装置も半導体不足に直面している
半導体製造装置大手のディスコは、装置の動きを制御するために使う半導体の種類を9割減らす取り組みをしています。半導体メーカーの増産に欠かせない製造装置も半導体不足に直面しており、半導体不足が半導体供給の妨げになるという悪循環が生まれています。
また、半導体を増産する時、工場の新設決定から生産を始めるまで1年前後はかかります。生産工程は数百以上あり、発注から納品までに数ヵ月を必要とします。そのため、工程の多さや時間の掛かりすぎといったプロセスが、半導体製造装置での半導体不足を更に遅らせているのかもしれません。
半導体不足が招く
半導体不足の問題は自動車関連だけでなく、その他多くの産業、製品にまで広がっています。
自動車関連製品は幅広く半導体が利用されていて、メーカーが使用する自動車部品、カーナビやオーディオ、ドライブレコーダー、ETCなど、半導体不足の影響を受けています。
自動車だけでなく、半導体はエアコンにも使われています。猛暑の中、半導体不足からエアコンが使用不可になると命の危険に繋がります。
また、医療機器業界の場合、CPU(中央演算処理装置)や画像センサーに使われる内視鏡などが使えないとなると、健康にも悪影響が出ます。
そうした中、半導体の偽物や粗悪品が横行し始めているそうです。かなり古い旧式や廃棄された家電から回収された中古の半導体の外見を整え、大手メーカーのロゴを勝手に使ってインターネットサイトで販売されています。主に中国や韓国、東南アジア製が中心であり、そのまま車のドライブレコーダーや電子タバコに組み込んで製品化され、販売後に作動しないという事例も出てきています。中には半導体から発火するものもあるそうです。
半導体不足は私たちの生活の質を下げ、健康、安全の脅威となりますので、私たちの生活の深い所にも関わってくるといえるでしょう。
半導体不足と太陽光発電
ルネサスエレクトロニクスの火災による半導体不足の影響は、太陽光発電業界にも波及しています。
太陽光発電システムの主な機器は以下の通りです。
・太陽光パネル
・架台
・接続箱
・パワーコンディショナ
半導体不足の影響を受けるのは「パワーコンディショナ」です。
日経新聞によると、複数のメーカーから続々とパワーコンディショナの生産遅延の報告が挙げられています。生産遅延が発生している太陽光発電メーカーは以下の通りです。
・長州産業
・Qセルズ
・カナディアン・ソーラー
・京セラ
・シャープ
・田淵電機
ルネサスエレクトロニクスの半導体はあらゆる業界で採用されており、各業界で半導体の在庫の取り合いになっていますが、自動車業界への供給が優先されているようです。
太陽光メーカーも半導体需給が正常化するのをただ待っているだけではなく、代替品のパワーコンディショナを準備し、システム全体として正常動作の確認や型式が古いパワーコンディショナで代替えするなど、可能性を常に模索しています。
2021年6月24日にルネサスエレクトロニクスの半導体の生産状況はおおむね通常状態に復活しましたが、各業界からの大量の受注残分を生産し、正常化するまでにはまだまだ時間がかかるでしょう。半導体不足が長期化すれば、太陽光発電の普及の足かせになるかもしれません。
まとめ
太陽光と半導体不足について解説してきました。以下、まとめになります。
・半導体はあらゆる電子機器や設備、クラウドサービスに使われているため私たちの生活に欠かせない
・半導体不足は私たちの生活の質を下げ、健康、安全の脅威となる
・半導体不足により、複数の太陽光メーカーからパワーコンディショナの生産遅延が報告されている
私たちの生活を支える上で欠かせない半導体が不足すれば、生産や市場だけでなく、健康や安全にまで被害が及びます。太陽光発電も家庭用太陽光発電に影響を受け、深刻な状態になっています。世界にまで影響を与える半導体が、今後どうなるのか要注目です。