太陽光の分割案件は増加している? 問題視される理由と該当しない条件とは

同一事業地において大規模設備を意図的に50kW未満などのシステムに分割すると、発電事業者はこのような保安にかかる管理コストや手間を削減できるため「太陽光の分割案件」が2020年に前年比4倍もの勢いで増加しました。
これに危機感を抱いた経済産業省資源エネルギー庁は、地権者が同じひとまとまりの土地を意図的に分割して太陽光発電設備の認定をうける「分割」案件の審査を2019年11月19日から厳格化しています。
今回は太陽光の分割案件について解説します。

太陽光の分割案件とは

土地分割とは、登記簿上の変更をせずに、建築基準法を満たす机上の線引きのことです。土地の分割では、土地の一部を売却するケースや農地の一部を宅地として利用するケースなどがあります。
登記簿上2つの土地に分けることを「分筆」と言います。この場合、土地の分割とは異なり、分けられた2つの土地が登記上別々の土地になります。

太陽光の分割案件とは、同一事業地において大規模設備を意図的に50kW未満などのシステムに分割した案件のことです。

発電設備を50kW未満に分割すると、発電事業者は保安にかかる管理コストや手間を削減できるため、大規模な発電設備を50kW未満などに分割し、保安規制の適用から外れようとする事業者が少なくありませんでした。

しかし、本来適用されるべき安全規制を回避することで、以下のようなことが問題視されています。
・公平性や年次点検など適正な保安がなされていない安全性への懸念
・一般送配電事業者側が負担する設備維持管理コストの増加による事業者間の不公平
・電気料金への転嫁の発生
・不必要な電柱などの設置が必要になり電気料金の上昇につながる
・メーターの設置など社会的な非効率の発生など

低圧接続の場合、一般送配電事業者が受変電設備を設置するため、高圧接続であれば発生しない費用を一般送配電事業者が負うことになってしまいます。一般送配電事業者が負担する費用は、託送料金として電気料金に上乗せされるため、最終的には需要家の負担増につながるとされています。

分割案件の経緯

2012年開始の太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)では、50kWを境にして安全対策や土地の確保義務など様々な面で厳しくなるため、大規模な発電設備を作ることができる土地を分割して、50kW未満の発電所を作る分割案件が数多く存在していました。

分割案件の認定には以下のような確認が必要です。
・実質的に同一の申請者から、同時期又は近接した時期に複数の同一種類の発電設備の申請があること
・当該複数の申請に係る土地が相互に近接するなど、実質的に一つの場所と認められること
・登記簿謄本や、使用を認める契約書(他人所有の土地の場合)の提出

2014年にはFIT認定基準に、「特段の理由なく同一の場所に複数の発電設備を設置しないこと」を要件に加えました。また、分割案件は2014年に禁止されたはずですが、2017年9月の総務省「FIT実態調査」によって多数認定を受けている可能性があることがわかり、総務省から経産省へ改善勧告が行われました。

改善勧告を受けて、2017年12月以降、認定申請に対する確認を徹底する以下のような措置がとられました。

・認定済・申請中の全設備の情報との突合を可能とするシステムが導入
・「分割案件」 のおそれがある全案件に対し、該当しないことを証明する書類の提出
・分割を解消した上での再申請

それでもまだ分割案件が多いということで、2019年11月19日から審査を厳格化すると発表されました。

経済産業省は発電設備の出力を分割して申請する「分割案件」が急増していることを問題視し、2021年4月から10kW未満の地上設置型の太陽光発電設備について、分割審査を行いました。
10kW~50kW未満の太陽光発電については、発電した電力を自家消費した上で余剰電力のみを売電することが認められた仕組みである、新しい地域活用要件が設定されました。

10kW未満の太陽光発電は無条件で余剰電力の売電のみが認められたため、(自家消費を行う必要がある地域活用要件の規制を逃れるために)発電設備を分割し、10kW未満の案件として申請することが問題視されています。

地域活用要件の設定が決まって以降、10kW未満の地上設置申請・認定が急増していると経済産業省は資料によって提示しています。2019年度の申請件数は937件、認定件数は824件であるのに対し、2020年度の申請件数は4,048件、認定数は2,336件であり、前年度比4倍に相当し、地域活用要件逃れの案件は増加しています。

一般的に10kW未満の発電設備は需要を分割できない家庭用の屋根置きが大半を占めるため、余剰電力の買取に必要な審査を代行している機関において分割審査を行っていませんでした。
これを解決するために、経済産業省は住宅用などの屋根設置を除く、地上設置型について10kW以上の発電設備と同様に分割審査を行うことにしました。

分割案件と判断される条件

分割の条件は、再生可能エネルギー発電設備の設置場所が、登記簿上の地権者が同一の一団の土地にある場合を含む同種の再生可能エネルギー発電設備の設置場所と隣接していることです。
かつ、以下のいずれかが同一である場合は、原則として施行規則第5条第2号の「一の場所」に設置される分割案件として判断し、不認定にされます。

①発電事業者
②登記簿上の地権者(その土地を所有・処分する権利を有する者をいい、申請日から原則1年以内において同じ者である場合も含む)

地権者とは、その土地を所有・処分する権利を有する者をいい、申請日から原則1年以内において同じ者である場合も含みます。

10kW 以上 50kW 未満の低圧太陽光発電設備については、大規模設備を意図的に小規模設備に分割している事例が多く存在しています。分割案件と判断した場合は、原則的に 2014 年度まで遡って登記簿上の地権者の確認を行い、地権者が同じ場合には分割と判断されます。

以下のような条件の場合、分割案件として判断されます。

・地権者が同一の一体として利用することが可能なひとまとまりの土地にある場合、発電設備の設置場所の隣に、別の太陽光発電設備がある
・低圧太陽光の場合、分割が疑われた際はさらに2014年度までさかのぼり、地権者が同じであった場合は分割と判断される
・他事業者と共同して、連続して同一の発電事業者とならないよう複数の発電所を設置している場合

分割案件を禁止する背景

分割案件を禁止する背景には、同一の事業地における大規模設備を意図的に小規模設備に分割することにより、以下の問題が発生するため、防止するという目的があります。

①本来、適用されるべき安全規制が実質的に回避される
②本来、発電事業者側で手当てすべき接続に当たっての補機類の整備が、電力会社側に結果的に転嫁され、特定原因者のための電気料金上昇を招く恐れがある
③本来であれば、必要のない電柱や電力メーター等が分割接続のためだけに新たに必要となる
④50kW 以上の太陽光発電に課される土地及び設備の 180 日以内の確保義務等の履行逃れに悪用される恐れがある

分割案件と判断されない条件

分割案件と判断されない条件は以下の通りです。

・元から公道や河川などをはさんでいて、物理的に統合することができない場合(意図的に私道などを作り、分断していると思われる場合を除く)
・農地などのように他用途への使用が制限されている土地をはさんでいることが客観的に認められる場合
・住宅、工場、店舗の屋根に設置されている太陽光発電と隣接する場合(20kW以上かつ一部を屋根に設置し、残りを地上に設置する場合を除く)
・分割しても全てが特別高圧(2,000kW以上)の場合
・異なる種類の再エネ発電設備を設置している(意図的に交互に設置するなどは不可)
・2013年度までに申請して認定を受けた設備と隣接した場所に設置する場合
・すでに運転を開始している同種の発電設備と、電力会社が設置する売電メーター的に一発電場所として扱われる場合

分割案件条件に該当すると名義変更ができなくなる

分譲・中古太陽光発電の売買には経産省への名義変更申請が必要です。
変更完了までに必要な時間、書類不足、業者の知識不足、変更前の販売業者の倒産など、名義変更を完了することはリスクが高いとされていました。

しかし、分割設置の判断基準が変わったことで、過去に認定を受けた発電所も分割設置に該当すると名義変更ができなくなり、申請しても承認されないことになります。つまり、名義変更できない太陽光発電所は売買できなくなってしまいました。名義変更は、分割案件の判断基準の変化という新たなリスクを持つことになります。

変更日 判断基準(片方に該当したら分割案件)
2014年4月1日 ・同じ発電事業者か

・同じ地権者か

不動産業者が一括して土地を購入・整地して販売していた土地を異なる発電事業者、異なる地権者が購入すれば、隣接していても問題なし

2017年7月14日 ・同じ発電事業者か

・1年さかのぼって、同じ地権者だった時期があるか

隣に発電所があっても、土地を購入して登記変更し、1年待てば太陽光発電を設置できた

2019年11月20日 ・同じ発電事業者か

・2014年までさかのぼって、同じ地権者だった時期があるか

名義変更ができないと、売電する権利が移転できず、発電所のトラブル発生時の責任が元の所有者のままになるため、本人だけに収まらない大きなリスクを背負い込むことになり、実質的に売買が不可になります。20年間という長い売電期間を考えると、これは非常に大きなリスクとなるでしょう。

分割案件と判断されると名義変更はできませんが、相続の場合は例外になります。
太陽光発電を相続する場合、事後変更届出という手続きを行います。これは認定申請ではなく届出だけのため、分割案件かどうかの判断がされません。そのため、相続の場合は名義変更が可能となります。

まとめ

太陽光と分割案件について解説してきました。以下、まとめになります。

・太陽光分割案件とは、同一事業地において大規模設備を意図的に50kW未満などのシステムに分割した案件
・分割案件が問題視されている理由には、本来、適用されるべき安全規制が実質的に回避されるなどがある
・分割案件に該当してしまうと名義変更ができなくなる

太陽光分割案件の条件は今どのようになっていて、何が該当するのか、最新の情報を常に取り入れ、自分達が該当しないか注意を配る必要があります。現時点で当てはまらなくても、条件が改正され、分割案件になってしまう可能性があるからです。ぜひこの機会に見直してみましょう。

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