太陽光設備を都内新築住宅に義務化? 2030年には6割の新築戸建て住宅設置が目標!

日本国内ではCO2が大半を占める温室効果ガスの排出量。その8割以上は化石燃料が由来であり、その内4割程度が電力です。しかし、CO2を排出しない太陽光発電などの再生可能エネルギーが電源として広がれば、発電所からのCO2排出量は削減することができます。
東京都は都内の新築住宅に対し、太陽光発電設備義務化を検討する方針を打ち出しました。2030年に6割設置が目標のようです。今回は太陽光の義務化について解説します。

東京都内の新築住宅に太陽光発電設備義務化を検討

2021年9月28日、都議会定例会の所信表明演説で小池百合子都知事は「都内で新築する住宅」を対象とした太陽光発電設備設置義務化を検討する方針を打ち出しました。

義務づける建物の規模や面積、制度の開始時期などは今後議論されるようですが、マンションなどの集合住宅だけでなく、一定規模の戸建て住宅も対象に含める方向で調整しているそうです。

個人が住宅を建てる際に、太陽光発電設備の義務化に関して「都市低炭素化促進法」に基づく融資や税軽減を受ける場合は、2022年度から設備の設置を必須とします。ただ、地域や日照状況の違いで発電量に差が生じるため、条件が不利なケースになってしまう場合があります。

政府は2050年には住宅の太陽光発電設備の設置が一般的になること、2030年に新築戸建て住宅の6割に太陽光発電設備を設置することを目標に設ける方針を示しました。

環境施策に力を入れる東京都

住宅を含む家庭部門とオフィスビルなどの部門を合わせた建築物分野の2019年度CO2排出量は3億5,200トンであり、国内全体の34%を占め、産業部門(3億8,400万トン)に次いで多い結果となりました。

小池都知事は「CO2の削減が一番進んでいないのは家庭であり、家庭部門の再生エネルギー導入を進める」提案をしたと定例記者会見で強調しました。

小池都知事は衆院議員時代に環境相を務めたこともあり、地球温暖化対策や省エネ加速化などの環境施策に力を入れてきました。
昨年末には「2030年までに新車の脱ガソリン車化」という政府目標を上回る目標を掲げており、次の一手に狙うのが新築住宅への太陽光発電義務化のようです。

また、東京都は都内の使用電力に占める再生可能エネルギー電力の割合を2030年までに50%に高める目標を掲げています。
目標達成を促進するために、東京都は(2021年)現在、住宅に太陽光で発電した電気を蓄える蓄電池を設置する際、機器費用の半額(上限42万円)を補助する制度を導入しています。

東京都が脱炭素目標を掲げる背景

東京都が脱炭素目標を掲げる背景は以下の通りです。

・2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする政府目標
・2030年のCO2排出量を2000年比で5割削減する東京都独自の厳しい目標

東京都は住宅への太陽光パネル設置費の助成や、設置が適しているかしていないか一目でわかる地図作成などを進めていますが、2019年度のCO2排出量は2000年度比0.2%減に留まっています。
東京都幹部は首都で脱炭素が進まなければ、国内の脱炭素への機運が高まらないと焦りを募らせているようです。

政府が出した脱炭素社会に向けた検討案

国土交通省と経済産業省、環境省は「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」を開催しました。
政府が示した対策案は、以下の通りです。

・新たにつくる学校や文化施設、庁舎など国や自治体が公共建築物を作る場合は原則として太陽光発電設備を設置
・それによって再生可能エネルギー導入量を増やす
・既存の建物などでも設置を加速する
・太陽光発電設備の設置を標準化する

環境省の推計によると、公共建築物で導入可能な太陽光発電の設備容量は、国内で既に導入された太陽光設備の3割に相当する、最大で約1,900万キロワットになるそうです。

事業者や国民の意識を高められるかが脱炭素のカギ

4月に施行した改正建築物省エネ法では、大きな建物だけでなく、延べ床面積300平方メートル以上の新築ビルや商業施設も追加し、さらに新築住宅にもエネルギー消費量などを定めた省エネ基準の義務付け対象の拡大も盛り込んでいます。

ここで重要になってくる対策は以下の通りです。

・外壁や窓に高断熱材を使う
・高効率な空調
・発光ダイオード(LED)照明を導入など

国交省の試算では、平均的な戸建て住宅で省エネ基準を満たすには約11万円の追加費用が必要で、光熱費が下がって回収できるまでに37年かかるとされています。そのため、補助金などの支援の拡充も模索する予定だそうです。

新築住宅の太陽光設置義務化は「地域や立地などで発電効率に格差があり一律の義務化は無理がある」との慎重論が根強く見送りになりました。また、新築の戸建て住宅は既に8割超が省エネ基準を満たしていますが、既存住宅は11%しか適合していません。

補助金や減税などの支援策を打ち出しても消費者の意識が変わらなければ進展しないため、既存住宅の省エネなど、事業者や国民の意識を高められるかが脱炭素のカギを握っているといえるでしょう。ビルなどの大規模な建築物は省エネ基準の引き揚げも検討し、脱炭素の取り組みを促す方針です。

2030年に住宅・建築物の目指すべき姿

対策案では2050年のカーボンニュートラル実現に向けて以下の事を目指しています。

・2050年の住宅・建築物の目指すべき姿として、ストック平均でZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能が確保されていること
・その導入が合理的な住宅・建築物における太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入が一般的となること

これを踏まえて、以下の事を2030年の目指すべき住宅・建築物の姿としました。

・2030年度の温室効果ガス排出量46%削減目標の実現に向けて技術的かつ経済的に利用可能な技術を最大限活用
・新築住宅・建築物にZEH・ZEB水準の省エネ性能を確保する
・新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が導入されていることを目指す

また、民間の住宅・建築物に対しては以下のようなことを挙げました。

・個人負担軽減の観点から補助制度に加えて融資や税制でも支援措置を講じる
・低炭素建築物の認定基準で太陽光発電などの再エネ導入設備を設置したZEH・ZEBを要件化する
・消費者や事業主が安心できるPPA(電力購入契約)モデルの定着に向けた分かりやすい情報提供に取り組む
・太陽光発電の後乗せやメンテナンス・交換に対する備えのあり方を周知普及する

それに対し、参加委員からが出た意見は以下の通りです。

・なぜ6割なのか、どのような意味を持つのかを追加付記して欲しい
・義務化については、既存住宅の後付けに関する技術面の課題など、慎重に議論を進めて欲しい
・前提となるデータの根拠や見通しが楽観的である
・2030年以降は太陽光発電の設置を100%とするなど早急な前倒しが必要

何故6割なのかわかりやすい説明がなければ、国民は太陽光発電設備の義務化に納得できないでしょう。

政府は、住宅を対象に加えた理由として「2030年のCO2排出量を2013年度比46%削減という野心的な目標達成に向け、建物の省エネ性能確保を進める」としています。来年の通常国会に関連法改正案を提出する方針であり、住宅の省エネ基準を遅くとも2030年までに引き上げる予定です。

義務化は国民の負担にならないか

太陽光設備義務化は補助金や国の支援が出るかもしれませんが、太陽光発電設備は初期投資がかかり、安く買える値段とはいえません。一度設置すれば終わりではなく、長く使い続けるものですので、メンテナンスも必要となってきます。果たして国民の負担にならないでしょうか。

日本政府は「2030年度に温室効果ガスを2013年度比46%減を目指し、2050年までに実質ゼロにする政府目標」を掲げ、CO2削減目標を26%から46%へ20%も引き上げました。

2012年から始まった固定価格買取制度(FIT)の実績から考えると1%あたり毎年1兆円の費用がかかっており、単純計算しても20兆円の費用が追加でかかることになります。このまま太陽光発電の義務化を実行すれば、産業は高コストになり、国民は疲弊するのではないでしょうか。

また、太陽光パネルは以前よりも安くなりましたが、私たちの電気料金から毎月引かれている「再生可能エネルギー発電促進賦課金」を原資に補助を受けています。

再生可能エネルギー発電促進賦課金とは、太陽光発電などの再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が買い取り、その金額の一部を国民から集めて再生可能エネルギーの普及を後押ししていきましょうという制度です。
再生可能エネルギー発電促進賦課金は年々増加し続けています。

再生可能エネルギーは化石燃料投入の必要はありませんが、電力を作り出すために太陽や風のエネルギーを集めなければいけません。そのためには原子力や火力よりも多くの発電設備が必要となり、大量のセメント、鉄、ガラスなどの材料を投入し、廃棄物も大量に出ます。そのため、太陽光発電はCO2削減に貢献できますが、本当に環境に優しいとはいえないかもしれません。
発電所には広い土地が必要であり、近年は安く太陽光発電を設置できる場所も減ってきており、今後の高コストの要因となりそうです。

それだけでなく、太陽光発電は今後どうなるかわからないようです。

いま最も安価で大量に普及している中国の新疆ウイグル自治区製結晶シリコン方式は、世界の45%という高シェア率を誇っています。高いシェアの理由は安価な電力、低い環境基準、そして低い賃金です。多結晶シリコンの生産には大量の電力が必要で、新疆では安価な石炭火力で賄っています。

しかし、強制労働が行われており、中国の複数の企業や太陽光発電産業も関わっている疑いがかけられています。それに対し、海外の太陽光発電関係企業は米国のウイグル強制労働防止法やそれに追随する諸国の規制への対応を行っています。

中国製の多結晶シリコン輸入が禁止されてしまうと、太陽光パネルの価格は倍増するでしょう。
そのため、太陽光発電設備が安くなっていくかどうかは怪しく、太陽光設備義務化は国民の負担になるかもしれません。

まとめ

太陽光と義務化について解説してきました。以下、まとめになります。

・2021年9月28日、小池百合子都知事は「都内で新築する住宅」を対象とした太陽光発電設備設置義務化の検討する方針を打ち出した
・国や自治体が新築する公共建築物を原則として太陽光発電設備を設置し、再生可能エネルギー導入量を増やす
・事業者や国民の意識を高められるかが脱炭素のカギ

太陽光発電の持つ問題やデメリットを解決しなければ、太陽光発電義務化は国民の疲弊に繋がります。そのため、十分な検討と国民が納得できる説明が必要でしょう。その上で東京都が率先して義務化を取り組めば、国民全体の意識も変わり、日本全体が地球温暖化対策に貢献できるかもしれません。今後の太陽光の義務化の動きに注目です。

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