太陽光発電投資は発電設備や工事など初期費用が高額になります。そのため、支払う消費税も多く、初期費用1,500万円の場合、消費税は150万円です。多額の投資費用となるので、少しでも早く初期費用を回収したいと考えるでしょう。その手段として有効なのが「消費税還付」の利用です。
太陽光事業者が消費税還付を受け取るには条件や手続きが必要であり、消費税還付を受け取る場合と受け取らない場合どう違うのでしょうか。今回は太陽光発電投資に取り組んでいる個人事業主、または法人へ、太陽光発電事業者として消費税還付を検討する際に最低限知っておくべき知識を解説します。
消費税還付とは
消費税還付とは、預かった消費税額(売上にかかった消費税)より支払った消費税額(仕入れにかかる消費税)が大きい場合、超過分が返金される制度のことです。
売上にかかる消費税は一旦預かり分として受け取ったとして考え、最終的に税務署に納められるのが原則です。税務署への納税額を求める計算式を原則課税といいます。
納付するべき消費税額=課税売上高消費税(預かり分×10%) ― 支払った消費税(仕入れ×10%)
還付金は納付するべき消費税額がマイナス、つまり消費税の支払い超過が発生した場合に受け取るものであり、支払った消費税が多いほど還付金額は大きくなります。しかし、受け取り対象者は所定の条件に当てはまる方のみなので、全員が受け取れるわけではありません。そのため消費税支払い超過が発生した場合、受け取り対象条件に当てはまるかチェックしておきましょう。
太陽光発電事業者の消費税還付金
太陽光発電投資家(事業者)にとって最初の難関は初期費用の消費税が非常に負担が大きいことでしょう。太陽光発電事業者は売電することで電力会社から消費税込みの電気料金を受け取り、電気料金に含まれる消費税は一旦預かり状態ということになり、最終的に税務署へ納税されます。
初期費用が非常に高額であったり、電力供給量が少なかったりすると、一時預かり状態の消費税よりも納付する消費税のほうが多くなり赤字になってしまいます。そのため、消費税還付の手続きを行い所定の条件を満たすと、以下のような一時預かり消費税と納付消費税の差額分が還付されます。
太陽光発電事業者の消費税還付金額=(年間の売電収入×10%)-(運用にかかる諸経費×10%)
たとえば、初期費用が1,000万円で売電収入が700万円の場合、支払った消費税の方が多いので条件を満たせば還付を受け取ることが可能です。逆に売電収入が多いと受け取ることができません。
たとえば、太陽光発電設備をはじめとする初期費用で1,000万円かかった時、売電収入で700万円しか得られなかった場合は支払った消費税の方が多いので還付を受け取ることができます。
消費税還付の対象になる太陽光発電の経費
諸経費が高額で支払った消費税が多いほど還付金額は大きくなります。消費税還付を受け取るのに必要な事項は以下の通りです。
- 経費の対象になるものが存在している(課税取引であること)
- 太陽光発電事業と直接的な関係がある
消費税還付の対象になるのは、消費税の課税対象となる取引のみです。つまり、土地の譲渡と貸付など、太陽光発電を新たに設置するために取得した土地は非課税取引なので消費税還付の対象とはなりません。太陽光発電に必要な諸経費の内、消費税還付の対象となる経費は以下の通りです。
- 太陽光発電を行うための土地購入に係る諸費用
- 太陽光発電に必要な設備の購入費(ソーラーパネル、架台、パワーコンディショナーなど)
- ローンの利息
- 固定資産税精算金 (建物に係るものは消費税の対象)
- セミナーの参加費
- 設置工事費
- メンテナンス費用など
実際に経費として計上できるかわからない場合は、その経費がなければ太陽光発電ができないものは還付金対象経費だと考えると分かりやすいでしょう。
太陽光発電で還付金を受け取る場合と受け取らない場合実質的に利益があるのは
還付金を受け取る場合と受け取らない場合、どちらのほうが実質的に利益があるのでしょうか。以下の条件の場合、3年間でどれくらい差があるのか比較してみます。
- 投資額1,500万円(支払う消費税 150万円)
- 年間売電収入200万円(預かり消費税 20万円)
- 年間諸経費30万円(支払う消費税 3万円)
- (預かり消費税 20万円) - (支払い消費税 153万円)=-133万円(還付金額)
還付を受けるために課税事業者となったら、3年間は消費税を支払う義務が生じます。
3年間消費税を納める場合、149万円の消費税がもどってくることになります。
3年分の預かり消費税(60万円)-支払い消費税(159万円)=-99万円
受けなかった場合、売電収入にかかる消費税を納める必要はなくなるので、3年間で60万円を納税せずに済みます。しかし、その場合99万円の還付金を受け取る機会を放棄することになるため30万円損していることになります。なので、消費税還付は受けたほうが利益は大きいといえるでしょう。
太陽光発電投資で消費税還付を受けられる条件
消費税還付を受けられる太陽光発電事業者の条件は以下のとおりです。
基準期間内で課税売上高(売電収入)が1,000万円以上の法人や個人事業主
1つ目は「基準期間内で課税売上高(売電収入)が1,000万円以上の法人や個人事業主」です。
基準期間とは対象事業者の課税期間から2年前の期間のことであり、消費税の納税義務の免除や、課税制度の適用について国税庁が判定するための基準となります。たとえば、令和4年に確定申告をする場合、それぞれの基準期間は以下のとおりです。
- 個人事業主:令和2年の1月1日~令和2年12月31日
- 法人:令和2年4月1日~令和3年3月31日(3月決算の場合)
特定期間内で課税売上高と給与収入が1,000万円以上の法人や個人事業主
2つ目は「特定期間内で課税売上高と給与収入が1,000万円以上の法人や個人事業主」です。
特定期間は、2021年までは給与収入のみで、2022年に太陽光発電の事業を開始した場合は、基本的に2022年が事業開始日となります。
たとえば、令和4年に確定申告をする場合、それぞれの特定期間内は以下のとおりです。
- 個人事業主:令和2年の1月1日~令和2年6月30日
- 法人:令和2年4月1日~令和2年9月30日(3月決算の場合)
課税売上が1,000万円未満であっても、資本金や出資金が1,000万円以上の法人を設立すると消費税課税事業者となるので、法人を立ち上げる際は忘れずに消費税還付の手続きを行いましょう。
免税事業者が消費税課税事業者選択届出書を提出して自ら課税事業者になることを選ぶ
3つ目は「免税事業者が消費税課税事業者選択届出書を提出して自ら課税事業者になることを選ぶ」です。
太陽光発電の売電収入で1,000万円を超えるには、初期費用が億単位に及ぶほど規模の大きい事業になるため、上記の条件を満たさない太陽光発電事業者は「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出しましょう。
消費税課税事業者選択届出書を提出すると、次の年の1年間分だけ消費税還付を受けることができます。
ただし、太陽光発電事業を行う前年の12月31日までに消費税課税事業者選択届出書を提出しなければ消費税課税事業者になれず、消費税還付を受けることができません。なので、太陽光発電事業開始時の初期投資分の消費税還付は受け取りたい場合、書類の提出期限に注意しましょう。書類の作成に不備があればロスタイムが痛いので税理士に相談をオススメします。
参考:国税庁「納税義務の免除」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6501.htm)
太陽光発電事業者が消費税還付を受けるメリット
太陽光発電事業者のメリットは以下の通りです。
利回りがよくなる
1つ目は「利回りがよくなる」ことです。
消費税還付を受け取る最大のメリットは利回りがよくなることです。初期投資による消費税還付は、数年単位で考えても消費税支払金額よりも高くなるため、差し引きのメリットが大きいです。
納付する償却資産税が減額できるので節税対策になる
2つ目は「納付する償却資産税が減額できるので節税対策になる」ことです。
固定資産税の一つである償却資産税は土地や家屋以外で事業に利用される資産のことです。太陽光発電で投資を行う場合、資産である設備に対して1.4%の償却資産税がかかります。
たとえば、1,000万円の太陽光発電に関する商品購入を行った場合、1,100万円(消費税100万円)支払うことになります。還付金を受け取る場合と受け取らない場合、以下のように異なります。
- 消費税還付を受け取らない場合:1,100万円に対して15.4万円の償却資産税が課税
- 消費税分100万円を消費税還付として受け取る場合:1,000万円に対して14万円の償却資産税が課税
消費税還付は焼却資源税減額につなげることができるので、実質的利益を増やすためにも可能な限り利用をオススメします。
太陽光発電事業者が還付金を受けるべきか判断するポイント
メリットの多い還付金ですが、太陽光発電事業者が還付金を受けるべきか判断するポイントは以下のとおりです。
消費税還付を受け取る義務がある3年間で消費税を支払えるか
1つ目は「消費税還付を受け取る義務がある3年間で消費税を支払えるか」です。
消費税還付は太陽光発電の初期費用を早く取り戻せる手段ですが、還付を受けるためには3年間消費税を支払う義務が生じます。そのため、消費税還付を受けた後に追加で新しい投資用太陽光発電を購入する予定がある場合、資金繰りや2年〜3年間の消費税を支払えるかしっかりと検討しましょう。
4年目以降負担になると判断した際、売電収入が1,000万円以下の太陽光事業者は「消費税課税事業者選択不適用届出手続」を前年までに提出することで免税事業者に戻ることができます。
消費税還付書類作成の手続きを任せる税理士の費用負担
2つ目は「消費税還付書類作成の手続きを任せる税理士の費用負担」です。
消費税還付の手続きは書類の難度と税務調査が入る可能性が高くなるため、太陽光発電投資と税金関連に詳しくないと決算や確定申告で失敗する可能性があります。対策として税理士に手続きを任せることをオススメしますが、その分年間で数十万円程度の費用が発生します。なので、消費税還付を受け取るか判断する際は税理士への費用負担も考えておきましょう。
まとめ
太陽光発電事業者として消費税還付を検討する際、最低限知っておくべきポイントなどを解説してきました。以下まとめになります。
- 太陽光発電における投資で消費税還付を受けるには、条件を満たした上で課税事業者になる必要性がある
- 還付申請が必要な上に税務調査に入られる可能性があるので、消費税還付を検討する際は支払う消費税と手続きにかかる労力コストを考える
- 太陽光発電事業者が消費税還付を受け取るメリットは利回りがよくなり、償却資産税が減額できるので節税対策になること
太陽光発電は初期費用を売電収入で相殺し、約10年で回収した上で利潤を追求する投資です。諸経費に比べれば毎年の売電収入のほうが低いですが、消費税還付で返ってくる金額は100万円単位になると期待できます。太陽光発電を始めるにあたって、購入する物品やサービスはたくさんあるので、消費税還付で戻ってくる金額を予測しながら資金計画を立てましょう。太陽光発電投資を始めてみようと検討している方は、この機会にぜひ消費税還付を利用しましょう。