2012年に再エネの固定価格買取制度(FIT制度)が導入されて以来、日本の再エネの導入は太陽光発電を中心として着実に進み、再エネは長期安定的な主力電源として持続可能なものとなるよう円滑な導入に向けた取り組みを推進しています。
稼働済み太陽光発電所は36GWを超え、MW当たり3.5億円で換算した場合、12.6兆円もの資金が太陽光発電設備に投下されています。今後、太陽光発電は70GW程度まで増えると予想されており、資金としても12兆円の2倍、20兆円を超える資金がこれから投入されるかもしれません。日本の電力インフラとして無視できない存在となってきており、そのインフラ設備を適切に管理し、効率的に運営される状態を継続するためには人員が必要です。そのために、再生可能エネルギー分野でもアセットマネジメントサービスが注目を集めています。
今回は太陽光のアセットマネジメントについて解説します。
アセットマネジメントとは
アセット(asset)は資産、マネジメント(management)は管理・運用を意味します。「アセットマネジメント」とは、様々な資産の管理・運用を代行する業務のことです。
もともとは、個人および企業の金融資産や不動産などリスク資産をオーナーに代わって管理する業種として発展してきましたが、昨今では道路や橋などの公共資産の運用にも適用されはじめています。
太陽光のアセットマネジメント業務には、発電所の状態を把握し、中長期的視点で収益を最大化させ、リスクをコントロールしなければいけません。発電所に対して適切な管理体制を構築することで、オーナーとの認識のズレを最小化し、資産の潜在価値を最大化させていきます。
資産管理業務には、技術的なメンテナンス管理業務、ビジネス的な管理業務が必要であり、それは同じくらいコストがかかります。アセットマネジメントを適正に実施し、社会的インフラ資産を効率的に運営することが、結果的に低コストのkWhを社会に供給することにつながるでしょう。
アセットマネジメントとO&M
アセットマネジメントと似たようなサービスにO&M(Operation & Maintenance:運転管理業務・保守点検業務)があります。
運転管理業務は、太陽光発電設備での発電量(売電量)を最大化し、発電の損失を最小化するために行う業務です。法令で定められている定期的なメンテナンスにとどまらず、ロスを排除し効率化を図り、太陽発電システムが適切に運転できるようAI統合監視システムによる24時間365日の「発電量監視」と「障害時の復旧対応」をします。
保守点検業務は、太陽光発電設備が正常に運転できる状態を保つための業務です。発電所の経年劣化など、さまざまなリスクを未然に防ぐために以下の事を行います。
・保守点検:モジュール不具合診断、ソラメンテ、ドローン空撮、現地駆けつけなど
・発電設備維持:除草・樹木伐採、巡視点検、モジュール洗浄、除雪、小修繕など
アセットマネジメントとO&Mの違いは、以下の通りです。
・アセットマネジメント:技術要素以外での発電設備の管理、資産運用効率の最大化、収益の最大化などを目的(事務代行としての観点)
・O&M:太陽光発電設備の点検、不具合の是正など、技術的な設備管理(電気保安)
アセットマネジメントとプロパティマネジメント
「プロパティマネジメント(Property Management)」とは、アパート経営のプロ(プロパティマネージャー)が「オーナーの代理」として、オーナーが行う業務を代行する管理方法です。
テナントの管理、募集業務、資金回収と報告書作成などのサービスを意味し、現場で不動産の直接的な管理や運用を行う業務を指します。
プロパティマネ-ジャーは、「不動産から得られる収益を最大限に高める」ため、オーナーの立場になって運営戦略を立案し行動します。
不動産業界のアセットマネジメントは、投資目的での不動産形成や運用、保全を行う業務のことです。
投資家・オーナーに代わって不動産の総合的な資産管理を行い、その価値を最大化することが主な目的です。
主な仕事として「物件買付」「運用」「物件売却」があります。
幅広い管理業務をこなすだけでなく、不動産相場の変動を見通す力、クライアントの要求に応じた不動産を探すためには、お互いに密な信頼関係を築くコミュニケーション能力が必要とされる仕事です。
テナントの募集や管理という業務負荷が高い不動産業界では、プロパティマネジャーとアセットマネージャーの業務に大きな違いがあり、それぞれ重要な役割を担っています。
太陽光発電設備や風力発電設備などは、電力購入契約(PPA)をあらかじめ長期間締結している場合が多く、テナント募集という業務が不要です。そのため、再生可能エネルギー業界では、アセットマネジメント業務とプロパティマネジメント業務を分ける必要がなく、プロパティマネジメント業務を含んだアセットマネジメント業務が一般的といえるのかもしれません。
求められるアセットマネジメントの重要性
2012年7月「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再エネ特措法)」に基づき、再エネの固定価格買取制度(FIT制度)が導入されました。
再生エネを持続可能で長期安定的な主力電源になるよう円滑な導入に向けた取り組みが推進され、太陽光発電を中心として普及していきました。
2020年6月成立の「エネルギー供給強靭化法」において再エネ特措法は、「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」と改正され、具体的に以下の事が盛り込まれました。
・FIT制度に加え、市場価格に一定のプレミアムを上乗せして交付するFIP制度の創設
・再エネ拡大に必要な地域間連系線等の系統整備を賦課金方式で支える制度の創設
・太陽光発電の適切な廃棄に向けた廃棄費用の外部積み立ての原則義務化など
増え続ける太陽光発電設備に対して、建設時の大規模な森林伐採などで環境破壊を招くケースが見受けられるようになりました。政府は大規模太陽光を環境影響評価法の対象とするため、環境省の有識者検討会や中央環境審議会などの議論を経て、2019年7月、必要要件などを定めた政令を閣議決定しました。これは、環境に与える影響やダメージ、起こり得る事故を事前に洗い出し、被害を最小限に抑えることを目的とするアセスメントの観点によるものです。2020年に施行されたものは以下の通りです。
・第一種事業:出力40,000kW以上の太陽光は必ず環境影響評価を実施する
・第二種事業:30,000kW以上40,000kW未満は個別事業ごとに実施を判断する
従来の太陽光発電の開発は、技術基準に適合した設計を行わず、十分な安全性の確保対策が行われていませんでした。台風などによる被害が顕在化した事例や、防災、環境上の懸念により地域住民との関係性が悪化した事例もあります。
一般社団法人日本アセットマネジメント協会(JAAM)のいうライフサイクルとは以下の通りです。
①調査・計画
②設備設計
③施工
④竣工
⑤売買
⑥保守・維持管理
⑦更新
⑧廃棄
上記のライフサイクルに及ぶ一貫したアセットマネジメントに向け、大規模な太陽光発電だけでなく、中小規模の太陽光発電システムのアセットマネジメントにも参考になる「太陽光発電アセットマネジメントガイドライン(案)」が公表されています。
また、現在メンテナンスの行き届いていない太陽光発電所が放置され、危険な存在になっています。低圧などの小規模事業者にとって20年間の適切なメンテナンスは厳しいのが原因とされています。そのような太陽光発電所を有能なアセットマネージャーが運営するファンドなどが買い集め、適切に運営すれば日本にとって確実にプラスになります。設備産業である太陽光発電事業にとって、事業運営のアセットマネージャーは欠かせない存在といえます。
今後の太陽光発電開発のあり方は、FIT期間後も含めた長期安定的な電源としてライフサイクルに配慮し、企画・建設段階の視点だけでなく、設備の運転・保守・維持管理段階におけるアセットマネジメントの重要性が求められてくるでしょう。
太陽光発電の新しい資産管理ガイドライン策定
従来、太陽光発電のガイドラインは透明性が低く、各プロセス内での操作の引き渡しが不十分でした。さらに太陽光発電の普及に重点が置かれているため、ガイドラインには厳格な規制の欠如や、古いソーラーパネルの将来の処分に関する予測の欠如などの問題がありました。
その問題を解決すべく、以下の内容を含む太陽光発電の新しい資産管理ガイドラインの策定が日本資産運用協会で行われています。
・すべての太陽光発電所のプロセスに関する包括的なガイドラインを確立
・事業者に長期間にわたって健全な発電所を管理させることを目的
・太陽光発電の以前は個別に策定された太陽光発電所の計画、設計、建設、および保守のガイドラインのすべてを包括的にカバー
FITの支援を受けているため太陽光発電は投資不動産とみなされ、継続的長期的安定的な電源達成には至りませんでした。そのため、特に個人事業主や個人投資家に投資管理ガイドラインを利用させます。その理由は以下の通りです。
・プロパティで問題が発生することが多いから
・問題が発生すると運用コストが増加しますが、予算内の予防措置により、残存リスクの管理が容易になり、O&Mでリスクを軽減できる
・資産管理ガイドラインは、コストパフォーマンスを視覚化および検討するためのデータとしても使用できる
・予算内の予防措置は、残存リスクの管理を容易にする
まとめ
太陽光のアセットマネジメントについて解説してきました。以下、まとめになります。
・太陽光のアセットマネジメントとは、発電所に対して適切な管理体制を構築することで、オーナーとの認識のズレを最小化し、資産の潜在価値を最大化させること
・アセットマネジメントを適正に実施し、社会的インフラ資産を効率的に運営することが、結果的に低コストのkWhを社会に供給することにつながる
・今後求められる太陽光発電開発のあり方として、アセットマネジメントの重要性が求められる
太陽光は再生可能エネルギーであり、今後も普及させていきたいエネルギーです。しかし、森林伐採などの環境破壊や技術基準に適合した設計を行わず、十分な安全性の確保対策が行われないなど様々な課題があります。アセットマネジメントはそういった問題を解決するだけでなく、太陽光を長期安定的な電源として設備の運転、保守、維持管理の企画を行ってくれます。今後も太陽光発電のアセットマネジメントは重要性を増し、必要とされるでしょう。